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第4話

こんなに一日が長いと感じたことは無かった。 我慢できずに何回か休み時間に山野のクラスまで行こうかと迷ったが、教室の移動などが重なり結局は放課後になってしまった。 昨日のように玉井に絡まれると面倒なので、授業中から机の中には教科書などは入れずにカバンから直接出し入れしていたので、帰りの礼をした途端にカバンをしっかりと抱えて、玉井が後ろを振り向く時にはもう教室を飛び出していた。 途中でトイレに寄り、昨夜考えた準備をしっかりとしてから、朝、山野と約束した場所へと向かった。 まだHR中のクラスもあり、廊下にはあまり人が出ていない。 その中を足早に駆け抜けた。 下駄箱は廊下よりもっと閑散としていて、僕の履き替える靴を出し入れする音だけが響き渡る。 靴を履き替えて扉から出ると、まだ山野は来ていない。 ガラスに映る自分の姿を見て、少し髪なんかを整えてみる。 まるで、恋人に会う前の…そこまで考えて、体がかっとするのを感じた。 恋人って、僕は山野と友達になりたいだけだ。 首を振って今の考えを打ち消す。 「ぷっ!」 後ろから噴き出す声が聞こえて、振り向くと顔を下に向けて肩を震わせている山野が立っていた。 「山野君!」 「ごめん、ごめん。だって、福木君が面白いんだもん。」 そう言って再び笑い出した、 僕がしかたないなという風にため息をつくと、山野が僕の肩に手を置いて軽く叩いた。 「やっぱり、福木君って面白いなぁ。」 そう言って、帰ろうと僕の背中を押した。 数歩、歩きだしたところで、ところでと山野が僕の顔をじっと見つめてきた。 少しどぎまぎしながら、なに?とそんな心の内を隠すようにそっけなく答える。 「今朝はそんなのしてなかったよね?」 そう言って僕の顔半分を覆っているマスクを指さした。 「あぁ、これ?」 そうと言って山野が頷く。 「昨日のようなことにならないようにと思って、実は…」 そう言ってマスクを少し浮かせると、その中を覗き込んだ山野が一瞬目を見開いてから勢いよく笑いだした。 まあ、そうはなるよなと再びため息をつく。 「ちょ…ちょっと待って。何やってるの、それ⁈」 涙を浮かべて、言葉を途切れさせながら聞いてくる。 「昨日の事があったから、匂いを嗅がないようにと思って。ただ、これ位しか思い浮かばなかったんだ。」 そう言って、鼻を挟んでいる洗濯ばさみを指で弾いた。 笑っていた山野がふっと真剣な表情になると、ありがとうと小さな声で呟いた。 「でも、大丈夫だよ。それよりもそんなのしていたら苦しいだろ?」 そう言って僕の鼻から洗濯ばさみをつかみ取った。 「いてっ!」 そう言って鼻をおさえた僕を見て、山野がふふっと笑った。 そんな山野を見て、このままずっとこの時間が続けばいいのにと願っている自分に驚いていると、山野が行くよと僕の腕を引っ張るようにして歩き出した。

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