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第6話

それからは何事もなく二人で駅まで歩き、電車に乗った。 仕事で一緒の時を過ごしたとは言え、個人的な事は何も話したことは無かったので、どんな食べ物が好きかや興味のある事など、山野のどんな些細な情報でも知ることができるのが嬉しくて、楽しくて、いつもは長くつまらない通学時間があっという間だった。 そろそろ山野の降りる駅に着くというところで山野が二人とも帰宅部なら、これからは一緒に帰ろうよと言ってくれた。 「行きもダメかな?」 僕が尋ねると、山野はちょっと困ったような顔になった。 「あ、無理ならいいんだ!」 焦って言うと、山野も焦ったように違うんだと首を横に振った。 「実は、朝が苦手でさ。けっこう遅刻間際な事が多くて。福木君に迷惑を掛けたらいやだから。」 そう言って頬をポリポリと掻いた。 「でも今日は結構早かったよね?」 今朝の事を思い出して尋ねた。 「それは、福木君に会わなきゃって思ったから、頑張ったんだ。」 そう言って照れたように笑った。 「山野君…。」 嬉しすぎてどうしようもなく抱きしめたい衝動にかられたが、自分達が電車に乗っているという事を思い出して何とか自分を制した。 「そういう事なら、僕と行く事になれば早く起きられるようになるんじゃないのかな?」 「え?」 「もし、本当に時間がヤバくなったら先に行くし…僕、山野君ともっとたくさんの時間を過ごしたいんだ。ダメかな?」 ちょっとだけ強目に押してみる。 山野はしばらく悩んでいたが、くすっと笑うといいよと言ってくれた。 「分かったよ。しかし、福木君。」 「なに?」 「まるで恋人にでも言うような事をサラっというんだね。女の子に言ったらきっとその気になっちゃうよ。」 「え?」 「無自覚なところがな。俺だからいいようなものの、気を付けないと男同士でも…君はαなんだからさ。」 αのところで声を落とす。 そうか。今まではあまりそういう事を考えた事がなかったが、αと言うのも面倒くさいモノなんだな。 僕の気持ちが顔に現れたのか、山野が頷く。 「あれ?でも何で山野君にならこういう事を言っても大丈夫なの?」 不思議に思って尋ねた。 「だって、友達告白されたんだから。俺はそう言う対象じゃないんだろ?だから、そういう事を言われてもそういう意味には取らないから大丈夫って事だよ。」 なるほどと頷きながらも、何かが心に引っ掛かる。 友達になって欲しかったし、こうやって友達として過ごしている時間はとても楽しい。 でも、改めて山野の口から「友達」と言われると、何か違うというか、寂しいというか、何とも表現しがたい気持ちが溢れてくる。 ガタンと電車が止まり、山野の降りる駅に着いた。荷物おきに置いたカバンを引っ張り下ろしながら、 「あ、降りなきゃ!じゃあ、明日からよろしくね、福木君。」 そう言ってカバンを抱き抱えるようにして、足早に開いている扉から電車を降りると、バイバイと手を振って電車がホームを出るまで見送ってくれた。 僕はわけのわからない気持ちにギュッと心臓を掴まれるような痛みを感じながらも、山野の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

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