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第7話
山野を見送った後、暫くして僕の降りる駅に近付いたので、山野の隣に置いておいた自分のカバンを引っ張り下ろした。
瞬間、あれ?と言う違和感を感じた。
電車が止まり足早にホームに降りて、備え付けのベンチにカバンを置くと違和感の正体が分かった。
僕のカバンには付いていない傷が付いているし、持った時に感じたが重さも少し違う。
一瞬躊躇したが鍵の部分を開けて蓋を開いた。
確認するまでもなかったが、やはり山野のカバンだった。
教科書とノートにサインペンで山野の名前が書かれている。
ちょっと丸みのある文字。
こんな字を書くんだなと、教科書の裏に書いてある名前をまじまじと見つめた。
教科書を戻そうとした時、カサっと音がした。
鞄の中を覗き込むと、ノートや教科書の間に隠すように入れてある白い紙袋が見えた。
取り出そうと鞄の中に手を伸ばしかけた時、スマホが通話を知らせた。
ポケットからスマホを取り出して表示を確認する。
やっぱり山野からだ。
「もしもし、山野君?」
電話に出ると、すぐに焦っているとわかる山野の声が飛んできた。
「俺のカバン!間違えてて…福木君のと間違えて…!」
焦りすぎて、言葉がうまく出てこないらしい。
それを落ち着かせるようにゆっくりと答えた。
「うん、大丈夫。今、僕が持って降りたよ。」
「あ…開けちゃった?」
おずおずと山野が尋ねる。
「いや、実は確認の為に開けようかなと思ったところに山野君から電話が来たから、まだ開けていないよ。」
瞬間、嘘をついた。
良かったと山野が電話の向こうでほっと溜息をつく。
「開けないほうがいいって言うなら山野君のカバンはこのままにしておくから、
今日はこのままお互い帰ろう?定期とかは大丈夫だった?」
「定期はポケットに入れてあったから大丈夫。福木君は?」
「僕もポケットに入れてあるから、大丈夫だよ。何か他に大事なものとか必要なものとかはない?ないなら明日の朝、会った時に交換しよう?」
少し沈黙があった後、分かったと山野が答えた。
「お願いだから開けないでね。」
再びの念押しに少し笑いながら、僕ってそんなに信用ない?と聞いた。
「そうじゃないんだ!ごめん。福木君にだけじゃなくて、皆んなにあんまり見られたくないものが入ってて…だから。」
山野が本当に申し訳なさそうに答えた。
「分かった。こっちこそごめん。ちょっと意地悪だったね。
でもね安心して大丈夫だよ。山野君に嫌われるような事は絶対にしない。だって、ようやく友達になれたんだから。だろ?」
僕の言葉に、ようやく少し落ち着いた声で山野が分かったと答えた。
じゃあ、明日の朝と言うと、山野もうんと言って通話を終えた。
スマホを再びポケットに入れると、蓋の開いている山野のカバンの中に手を突っ込み、先ほど見た白い紙袋を引っ張り出した。
多分、見られたくないものってこれだろうな。あんな風に言っておいて、こうやって僕が山野の秘密を暴こうとしているなんて知ったら山野は許してはくれないよな。そうと分かっていても、目の前にあるモノに対する好奇心に負けた。
山野、ごめん!そう心の中で謝りながら、紙袋に目を落とす。
表書きには山野の名前と病院の名前が書いてある。僕でも知っているここら辺では有名な病院だ。
紙袋を開くと、錠剤が入っていた。その薬名に見覚えがあった。
紙袋を閉じ、再び入っていた時と同じように教科書とノートの間に慎重に入れると、ゆっくりと蓋を閉めた。
ベンチからカバンを持ち上げると大事に抱きかかえ、改札に向かう人波の中に身を投じた。
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