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第8話
翌朝、約束した時間よりもかなり早目に山野の最寄り駅に着いた。
ベンチに座って改札に続く階段を眺める。
約束時間よりも早目に、階段を下りて来る人の波の中からチラチラと見え隠れする山野の姿が確認できた。
少し手を上げると山野が気がついて、僕と同じように手を上げながら駆け寄って来る。
「おはよう」
そう言い合うと、山野がそわそわと僕の持っているカバンに目をやった。
はいと言って山野に手渡すと、山野も僕のカバンをごめんと言いながら手渡してくれた。
「俺がちゃんと確認さえすればよかったのに…迷惑かけてごめん。」
「気にもしていないから全然大丈夫だよ。あ、山野君ってただの水って飲める?実は炭酸水だと思って買ったら違くて。自分用に炭酸水を買い直したんだけど、2本も持ち歩くのは重くて。貰ってくれたら嬉しいんだけど。」
そう言って、背中とベンチの間に挟んでいたペットボトルの水を山野に差し出した。
「だったらお金払うよ。」
そう言って山野が財布を取り出そうとするのを手で制した。
「僕の荷物を軽くしてもらうんだから、いいんだよ。はい。」
山野の手にペットボトルを握らせる。
でもという山野の返事を無視するように立ち上がりながら口を開いた。
「実はさっきからトイレに行きたくてさ。時間はまだ大丈夫だよね?ちょっと行って来るから待ってて?」
そいう言うと階段に向かって歩き出した。
「あ…分かった。」
僕の背中に向かって山野が返事をする。それに答えるように片手を上げた。
階段の側まで来ると壁に隠れるようにして立つ。
山野の方を覗き見ると、しばらくは階段の方を見つめていたが、そそくさとカバンを開くと中を見て安堵のため息をついた。
カバンに手を突っ込み中から例の紙袋を出すと、周囲をキョロキョロと見渡しながら袋の中で薬を取り出し、パッと口に入れた。
先ほど渡した水のキャップをくいっと開けて、ゴクゴクと薬を流し込む。
その喉の動きに目が離せず、危うく別の用事でトイレに行くハメになりそうになった。
それから2〜3分したのを見計らい、色々と落ち着いた僕は何食わぬ顔で山野の元に戻った。
カバンを持ち上げると、丁度ホームに入ってきた電車に2人で乗り込む。
それからは他愛もない話を楽しみ、学校に向かった。
しかしその間中、あの薬を山野が飲んだと言う事実だけが僕の心を占めていた。
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