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第12話
ふっと目を開けると、蛍光灯の明かりが目に入った。
眩しさに咄嗟に両腕で目を覆う。
横を向くと、閉められたカーテンの隙間から、沈み始めた太陽の思いのほか強い光が差し込んでいた。
再び天井を向く。
頭がようやく動き始め、自分が保健室のベッドに寝かされていることが分かった。
白い清潔なベッドの上で、ゆっくりと上半身を起こす。
仕切りのカーテンが閉じられているため、部屋の様子は分からない。
ベッドの端に腰掛けようと体を動かそうとした時、話し声が聞こえてきた。
「さっさと出て行け!」
玉井の声だ。誰かに向かって声を落としながらも恫喝している。
「俺は今日、福木と帰る約束をしているんだ。出て行くなら玉井の方じゃないの?大体、福木がこうやって保健室で寝る羽目になったのも、玉井のせいじゃないか⁈よく顔を出せたもんだな。」
山野の辛辣な声がする。
何故二人がここにいるんだろう?
頭が状況に追い付かない。
無意識に体が動き、ギシっとベッドが軋んだ。
その音に反応した二人がバッと仕切りのカーテンを開けると、僕が起きているのを確認して争うように入ってきた。
「福木、大丈夫?どこか痛い所とかはない?」
「おい、大丈夫か?悪かったな、無理させた。」
二人が同時に喋り出す。
「ちょっと待ってくれ。まだ状況がよくわかっていないんだ。」
二人を手で制すと、それを見て二人が黙った。
静かになった部屋で、今朝の出来事を思い返す。
「朝、山野と登校して玉井と会って…っ!」
瞬間、何故保健室にいるのかという事の全てを思い出した。
「玉井!お前、何であんな…あんな事…。」
ベッドから下りて、玉井の胸ぐらをつかんだはずが、逆にベッドに仰向けにして押し倒された。
「玉井、やめろ!」
山野が玉井の体を僕から離そうとするが、逆に弾き飛ばされて床に倒れ込んだ。
「山野!」
何とか山野の方を向こうとするが、玉井に羽交い絞めにされて動けない。
「だから、泣かせたくなるって言っただろ?」
お前のせいだからな、そう言うと玉井の手が僕の下半身をズボンの上からさする。
ずくんとした熱による痛みを感じ、自分が反応していくのが分かる。
今朝受けた玉井による快楽を知った体は、僕の気持ちを無視して寧ろ積極的にその波の中に身を投じようとしていく。
「やめ…ろ!」
玉井になのか、僕自身に向けてなのか分からない言葉が口を突いて出た。
どちらでもいい。ともかくこの玉井の手を引き離そうと抗った僕の両手を玉井はいとも簡単に片手で掴むと、頭の上のベッドに押し付けた。
手を動かすこともできず、足を閉じようとしても玉井の足が両足の間に入りこんでいて、こちらも動かすことができない。
体をよじって抗うと、学ばないやつだなと言って、玉井の手がシャツの中にするりと入り込んできた。
「ひあっ!」
いきなり胸の突起を擦られ、声が出た。
「お前のその声、腰にクる。」
そう言うと僕の唇を舌で舐めた。
「んーーーー!」
口を閉じて抵抗するが、自分だけでは得る事のできない快感があちこちから僕に襲い掛かり、ついには我慢できずに口が開く。それと一緒に恥ずかしくなる位に甘い声が部屋の中に響いた。
「んん…はぁあぁん」
先程みたいに手で口を覆いたくなるが、玉井に掴まれているのでそれも叶わず、一度我慢をなくした口は閉じることもできず、甘ったるい嬌声が部屋を埋めていく。
「俺の手でお前にその声を出させているのかと思うと、それだけでイっちまいそうになる。」
そう言うと玉井の舌が僕の口の中に入り込み、まるで食べるかのようにその口で覆われ、いいように口内を弄び始める。
「あぁ…っめ…んあっ、ろ…」
どんなに抵抗の言葉を吐いても、全てが嬌声に掻き消されていく。もっと聞かせろとでも言うかのように玉井が強い刺激を与えてくる。今やシャツははだけ、下半身はズボンの中で痛い程に膨らみ、その欲を吐き出させてくれと懇願するかのようにびくんびくんと僕の体を震わせる。
玉井の手は分かっていながらもそこに直接触れてくれない。布地越しにしか得られない快楽では、欲を吐き出すこともできず、どうにもならない下半身は更に強い快楽を欲しがって、玉井の足にこすりつけさせてくれと言うかのように腰を動かした。
そんなことをしてはだめだと必死に頭では止めようとするが、体が無意識に動いてしまう。
「玉井、やめろ!」
山野の声に我に返り、再び玉井の体の下から逃れようと体を精一杯ばたつかせた。
山野も必死に玉井の体を僕から離そうと奮闘している。しかし、山野の体がまたも床に転がった。
「そこで唇噛んで見てな。」
山野がギラギラとした目で玉井を睨み付けるがその視線が僕と合った瞬間、顔を背けた。
山野に見られていた。
そう思った途端、またも僕が膨れ上がった。
「うあっ…あぁぁぁ」
痛みに声が止まらない。
玉井がそれを見て、チッと舌打ちをした。
「山野に見られた位で膨らませてんじゃねーよ。俺の手を…俺をもっと感じてくれよ!」
玉井が悲痛な叫びのような声をあげた。
そこにガラガラと扉が開く音がした。
瞬間玉井が僕の上から退いて、ベッドから下りると同時に先ほどまでかけてあった毛布を僕の体にバサッとかけ直した。
山野が仕切りのカーテンを閉じながら顔だけ部屋の方に出すと、入ってきた保健の先生と何事もなかったかのように僕が起きたと話し始める。
玉井はその間に毛布の下に手を入れ、嫌がる僕を無視してズボンから僕を取り出すと、擦り出した
「このままじゃ、帰れないだろ?」
いつもとは違うトーンを落とした声で囁かれ、腰がずくんと疼いた。
しまったと思ったが、ムクっと更に立ち上がった僕を自分の囁きのせいだとは考えもつかないのか、玉井は淡々と僕の処理を進めていく。バレなかった事にホッとはしたものの、その的確に与えられる快楽に声が出そうになるのを我慢できず、手で口を覆った。
それを見た玉井がティッシュを僕に被せて今度は強めに擦り出した。
「あぁ…」
声が出た瞬間、玉井の顔が近付き、僕の口を自分の口で蓋をした。
それは今までの激しいものではなく、舌をゆっくりと絡め、大丈夫だと言っているかのようなキスだった。
強張っていた心が緩んだ瞬間、玉井に強く擦り上げられて我慢できずに再び玉井の手によって僕は性欲を吐き出させられた。
息を整えながら顔を上げると、山野と視線がぶつかった。
何とも言えない気まずさに、僕は毛布を頭から被った。
僕の後片付けをしていた玉井がそれを見て笑いながら毛布を持ち上げると、僕の汗ばんだ前髪を掻き上げて唇を押し当てた。
「なっ…!」
先ほどのキスもそうだが、恋人にするかのような玉井の想定外の行為に僕は言葉も出ない。
山野も持っていたカバンを床に落としてしまった。
そんな二人の様子を見て、玉井がはぁとため息をついてから話し始めた。
「俺は、こんなだから誤解されていると思うけれど…お前とこういう事をしたいと思っている。だからと言って、ただ単に性欲処理をしたいわけじゃない。福木ときちんと付き合いたいんだ。お前を大事にしたい。
お前が山野を気にしているのも、俺を苦手だと思っていることも知っている。それでも、俺はお前を諦めたくないし、諦めるつもりもない。どんな手段を使ってでも俺のモノにする。」
「何を勝手な事を!」
こんな風に僕の気持ちを無視して無理やりこんな事をしておきながらと、玉井に噛みついた。
「今までは誰にも興味を持つ事のなかったお前が山野に興味を持って、一気にその距離を縮めていくのを見て焦ったんだ。」
これが今の俺のお前への偽らざる気持ちだから、よく考えておいてくれ、そう言って玉井は自分のカバンを持つと、山野の横を通り過ぎて保健室を出て行った。
残された僕と山野は保険の先生に追い出されるようにして、帰路についた。
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