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第20話
目を開けると見覚えのある天井と蛍光灯。
僕は再び、保健室のベッドの上で目を覚ました。
前回とは違い、今回は仕切りのカーテンの中で山野と玉井が心配そうな顔で僕を覗いていた。
上半身を起き上がらせると、大丈夫だよと二人の肩を叩いた。
「玉井が無理ばかりさせるから!」
「今回のはお前が出したんだから、寧ろ山野の責任だろ?」
僕が元気なのを見て、ほっとした二人が今度は相手のせいだと言い合う。
「ちょっと、そこの二人!ここは保健室なのよ!そういう言い合いは外でしなさい!!」
保健の先生に叱られ、二人がぐっと口をつぐんで黙る。
「福木君、大丈夫なの?あなた一人暮らしでしょ?この間もあったばかりだし。こういう事が続くなら、ご両親に連絡しないといけなくなるわよ?」
保健の先生の言葉に、僕がすいませんと謝る。
「福木は悪くないんです。俺が無理をさせたから俺のせいなんです。すいませんでした。」
玉井が頭を下げて謝る。それに続くように自分もと山野も謝る。
それを見た先生がため息をつきながら、
「そうなの?じゃあ、二人ともほどほどにしておきなさいよ。福木君に無理をさせるようなことはしないように、ね。」
どう言う無理をさせたのかと言う詳しいことは聞かれず、ほっとする。
元気ならさっさと帰りなさいと言われて僕達は保健室を追い出された。
廊下を3人で歩きながら窓の外を見ると、すでに日が傾き出していた。
帰宅部の生徒達はすでに下校し、廊下を上履きに履き替えた僕ら3人の足音だけが響く。
部活動にいそしむ生徒達の声がグラウンドから聞こえてきた。
下駄箱で山野といったん分かれて、靴に履き替えて扉の外で落ち合う。
3人で黙ったまま駅までの道を歩き続ける。
そんな中、山野が口を開いた。
「なぁ、これから基本3人で行動しないか?」
僕も驚いたが、玉井の驚きはそれ以上だった。
「俺にとってはありがたい話だけれど、いいのか?」
「互いに監視し合うためだから仕方ないだろ?」
「あぁ、そういう事か。」
玉井がふーんと鼻で笑う。
それを見た山野が少し顔を赤くして、
「学校では俺、通学では玉井、どっちも相手が福木と二人だけの時間を過ごす。だから、出来る限り一緒にいる事で監視し合う。俺だって、お前と弁当とか食べるの嫌だけど、玉井に邪魔されて福木が来られなかったらもっと嫌だからさ。それなら玉井と3人で食べた方がいい。」
そう言って、玉井をじっと睨む。
「それだって今朝みたいな事があれば俺は玉井には勝てないで、ああやって福木を連れて行かれてしまう。だから、通学の電車で俺が福木に手を出さない代わりに玉井も手を出すな!って事!」
言い終えた山野が肩で息をする。
黙って山野の話を聞いていた玉井がくくくと笑い出した。
「分かった、分かった。山野も大分考えたんだな。確かに俺と駅で別れて電車に乗った後で、二人がどこに行っても俺には知る術もないしな。」
そういう事と山野が頷く。
「結局は休戦って事か…でも、もしもそれを破った時にはどうするんだ?」
玉井が尋ねると山野が僕を見て、
「福木と言うか福木の体が嘘をつけないからな。」
山野が言うと玉井もそれに賛同するように頷いた。
「なんだよ、それ?」
抗議するように僕が言うと、二人が顔を見合わせて笑った。
「やったらやっていいって事で!」
と山野が言うと、玉井もそれならと頷く。
「僕の意見は聞かれないのか?」
再度抗議する僕に、二人が笑い出した。
こうして、僕を挟んで玉井と山野の3人で過ごす奇妙な生活が始まった。
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