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第22話
あの玉井との秘密の日から約一か月ほどが経った日、いつも通り三人で駅に向かって歩いていると、山野が何かを言いたそうにこちらをちらちらと伺ってくる。
「山野、何かあった?」
僕が切り出すと、山野があのさぁと話し出した。
「明日、玉井の家に行く日なんだ、俺。」
「あぁ、病院の日か?」
そう言うと、山野がぶんぶんと首を振る。
「そんなに振ったら危ないよ。」
そう言って、山野の体を支えようと手を伸ばした僕をどかすようにして、玉井が山野の体を支える。
「玉井、うざい!!」
「山野、邪魔!!」
「二人とも、やめなって。」
はぁと大きなため息をつく。
あの日から、玉井の僕への独占欲が強くなったような気がする。
少しでも山野が僕に、僕が山野に触れようとすると、今のように僕をどかして触れさせないようにする。
山野もそれには気が付いていて、それまではそこそこ良かった二人の仲がギスギスしていた。
「最初から別に仲良しになるためのモノじゃないし。」
二人になった電車で山野は言っていたが、せっかく三人で一緒にいるのだから少しは仲良くしてもいいのでは?と思うのは僕だけなのか。
そんな事を考えていたので、山野の話の続きを聞いていなかった。山野に福木と肩を叩かれてようやく気が付いた。
「あ、ごめん。何?」
僕が聞き返すと、明日って一緒には帰れないかな?と山野が僕に尋ねる。
「別に時間はあるし、病院で待ってようか?」
僕が言うと、山野の目がキラキラと光る。
「本当に?!良かったーーー!」
嬉しそうな顔を見て、僕もつい笑顔になる。
その隣で渋そうな顔をしていた玉井が何かに気が付いたように言った。
「だったら、この前みたいに山野が終わるまで福木は俺の部屋で待っていればいいんじゃないのか?」
この前と言う言葉にドキッとする。
僕の顔をじっと見つめるその瞳の奥に、怪しい光が揺れている。
「いや、僕は…」
病院で待つよと言う前に山野がうんうんと頷いた。
「実は、そうしてもらえるといいなと思ってて。病院で長時間待つのは結構疲れるし。俺も気になるし。」
僕が口を開く前に玉井がそうなんだよなと相槌を打ち、僕の意見は聞かれないまま二人の間で話が決まってしまった。
玉井の部屋に、あの部屋にまた行くのか?
玉井の「この部屋では俺がルールだ。」と言う言葉が頭をよぎる。
山野に言って、病院で待たせてもらおうかとも考えてはみたものの、理由を問われればあの日の事を説明しなければならないだろう。
そうしたら、玉井とはこうやっていられなくなるんだぞ。
あんな勝手に無理やりするようなやつなのに、どこかでそれをして欲しいと思っている僕がいる。
玉井がいなくなったら嫌だと叫ぶ僕がいる。
いつの間にか足を止め、じっと考え込んでいる僕に山野が気が付き戻ってきた。
「福木、大丈夫?」
そう言って僕の腕に自分の腕を回す。
またも玉井が邪魔をするのではと思って見ると、少し離れた所で僕をじっと見つめペロッと舌なめずりをした。
体が、いや、あの日探られた僕の渦の中がきゅうっと反応する。
あの舌舐めずりの意味を知りたくないのに、何をされるのか分かっている、そしてそれを欲している僕がいる。
「大丈夫?顔が赤いよ?」
山野が僕のおでこに手を当てる。
「山野の手、気持ちいい。」
額に当てられた手の上から僕の手を重ねる。
「福木っ!」
山野が焦って玉井の方を向くが、先ほどのように玉井が邪魔をする気がないのを見て、
「何かあったのかな?」
と僕に囁く。
「何だろうね?」
僕はそう言葉を濁すと、山野とゆっくりと歩き出した。
しばらく先で玉井が僕達の来るのを待っていたのに合流すると、再び三人で駅に向かう。
駅での玉井との別れ際、山野が明日はよろしくなと玉井に手を振る。
「あぁ、気にするな。福木、明日の準備しておくから、な。」
「そんな準備なんてしなくていいよ。ただ、山野を待つだけなんだから。」
僕が答えると、俺がしたいから、いいんだよと言って、手を振って歩き去った。
「なんか、玉井が優しくなった?」
そう言って、山野が僕に向かって良かったねと微笑む。
あの言葉に何が隠されているのか、もしも山野が知ったら怒りだけでは済まないだろう。
そう思いながらあぁと頷いて二人で改札を抜けた。
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