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第28話

黙ったままで僕の肩をぎゅっと抱いたまま歩き続ける玉井の顔をまともに見る事もできず、ただただ下を向いて歩き続けた。 病院と家の境にある扉を抜け、今度はサンダルからスリッパに履き替える。 途中で、最初に来た時に応対してくれた女性とすれ違った。 玉井に挨拶をして過ぎ去ろうとした女性を玉井が立ち止まって呼び止めた。 「こいつ、今日泊まるから。あ、でも特に何もしなくていいし。俺の部屋で勝手にやるから入って来ないでくれる?」 「分かりました。皆にも伝えておきます。夕飯などは?」 「必要なら、買いにでも行くから大丈夫。それに、冷蔵庫あされば何かあるだろ?」 「おにぎり位なら作っておけますよ?」 「そうだな…食べるか分からないけど、いい?」 「はい。残っていればその時はこちらで…。」 そう言ってニコッと笑うと、玉井もそうだねと笑う。 それではと女性が僕にも会釈をすると立ち去って行った。 「泊まるって、どういう事だよ?」 先ほどと同じように再び黙々と歩き続ける玉井に抗議する。 「僕は泊まるなんて話、聞いてない!」 玉井の足がずんずんと大股になり、僕の足がもつれそうになる。 転びそうになる僕を面倒くさそうに抱きかかえると、そのまま足早に自分の部屋に入った。 どんとベッドに転がされ、玉井が部屋の鍵を閉めに扉まで行く。 逃げたいという思いと、逃げ切れないという思いが交錯する。 ベッドの上で上半身を起こそうとした瞬間、 「動くな!」 玉井の静かだが、圧力のある声が響いた。 びくっと体が強張り、そのままの姿勢で固まる。 「まぁ、俺もお前とこういう事をやっているわけだから、山野とお前が何をしようと怒る筋ではないって事は分かってはいるんだよな。」 玉井が手にジャラジャラとしたチェーンのついた拘束具と分かるそれを持って近付いてくる。 「玉井…やだ…やだって!!」 僕が抵抗しようとするのを簡単に羽交い絞めにすると、僕を拘束具につなぎ、ベッドに括りつけていく。 「これさ、お前が動くとジャラジャラなるだろ?俺にやられながらこの音を出すお前の事を考えるだけでマジでイきそうになる。」 そう言うとペロッと僕の頬を舐めた。 「ひっ!」 恐怖で声が上ずる。 「あと、泊まるって聞いていないって言ってたけれど、帰れるくらいの事で俺が許すなんて、そんなのあるわけないだろ?」 言い聞かせるように優しく僕の髪をなでる。 言葉とのギャップに、逆に玉井の事が恐ろしくて体が震える。 「震えてるのか?大丈夫だよ、福木。俺の気が済んだら、ちゃんと帰してやるから…今はな。」 玉井の顔が近付き、僕に口づけをする。 「うう…ん。」 玉井の手が僕のシャツのボタンにかかり、上から外していこうとした瞬間、玉井のスマホが鳴った。 「なんだよ⁉」 ちっと舌打ちをしながら、ベッドから下りてスマホを取り上げると通話を始めた。 「兄貴、何だよ?え?ちょっと待ってくれ…分かった。」 玉井が通話を切り、僕にバサッと毛布を掛けてから、扉に向かった。 鍵を開け、扉を開くと玉井のお兄さんが立っていた。 「いいか?」 お兄さんが尋ねると、玉井が頷く。 さすがにこのような状況を見せるわけにはいかず、玉井が扉近くでお兄さんと話をし始めた。 「妊娠⁈」 玉井が大声を出した。 妊娠?何の話だ? 「福木、お前いつから山野とやってたんだ?」 「優大、違うんだ。福木君は関係ない。」 「はぁ?!」 玉井がお兄さんの言葉に変な声をあげる。 妊娠だの、僕は関係ないだの、訳が分からずに悶々とする僕に玉井が近付く。 「俺はこれから山野のところに行ってくる。お前はここでこのままで待ってな。」 「玉井、妊娠って何だよ?なぁ。玉井⁈」 僕が何とか情報を得ようと食らいつく。 「福木君、山野君にその兆候があるんだ。」 お兄さんが扉の側から僕に話をしてくれた。 「どういう事ですか?」 「検査の結果、そう言う、妊娠している可能性が出てきた。君とのことは昨夜、山野君本人から聞いているし、君の話や状況から鑑みて嘘ではないだろうと。ただ、そうするとこの子供の相手が誰なのか?そこになると、山野君は口を閉ざしたきりで何も言ってくれないんだ。それで、私も困ってしまってね。福木君か優大に助けを求めに来たというわけだ。」 「そんなっ!山野が妊娠って?!」 「山野は福木にだけは絶対に言わないだろうよ。だから俺が行く。あいつが話せるのは多分俺だけだから。」 そう言うと、玉井がお兄さんと扉から出て行こうとした。 「玉井っ!!」 僕の叫びに、 「きちんと話してくるから、いい子で待ってな!」 そう言って、こちらを振り向く事無く手を上げて、二人は部屋から出て行った。

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