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第33話

病院との境にある扉を抜け、幸也と家のどこに行ったらいいのだろうかと相談していると玉井のお兄さんの姿が見えた。 すかさず幸也が先生と呼ぶ。 「あぁ!おはよう、二人とも。今、迎えに行こうと思っていたところだ。例のニュースの件は優大から聞いた。山野君はリビングの方に私と来てもらって、福木君には優大の部屋で状況確認をしてもらいたいんだけれどいいかな?」 僕の行動が引き金を引いたとはいえ、今この時に幸也と一緒にリビングに行く訳にはいかないだろう。 そう理解して、 「分かりました。」 と、答えた。 お兄さんがすまないねと僕の肩を叩いて、幸也に向き直る。 「山野君、ご両親はもうリビングにいらっしゃっているよ。大体の話の流れは父がしてあるから。ご両親はかなり驚いておられたが、気丈に振舞っておられる。」 「…はい。」 俯いてぐっとこぶしを握る幸也の肩を抱きかかえ、大丈夫?と声をかける。 頷く幸也を促して、三人で玉井の部屋に寄ると僕を扉の前に残し、二人はリビングの方に向かって行った。二人の姿が見えなくなるまで見送ってから、目の前の扉に対峙した。 昨日から今朝のやり取りを思い出すとノックをするのをためらわれたが、幸也の 件を調べなければならないしと、意を決して扉を軽くノックする。 すかさず福木か?と中から玉井の声が返って来た。 あぁと答えてノブに手をかけると、僕が力を入れる前にかちゃっと音がして扉が中から開いた。 え?と言う間もなく扉の向こうから玉井の腕が伸びて僕の腕を掴むと、力任せに部屋の中に引き入れられた。 玉井のもう片方の手が扉をバタンと閉めて鍵をかける。 引っ張られたままベッドに連れて行かれそのまま押し倒された。 馬乗りになった玉井に、 「こんなことしてる暇ないはずだろう? 山野のニュースの件、確認しないといけないんだからさ。なぁ、玉井!」 「もう、してある。」 その一言で僕を黙らせ、僕のシャツを脱がせながら首に舌を這わせる玉井を、腕を突っぱねて抵抗する。 「幸也…か。」 突然、玉井が幸也の名を呼んだことに驚き、僕の体が動きを止めた。 「え?」 「名前で呼ぶようになったんだな…。山野も呼ぶのか?哲雄って甘い声でさ。」 「…やめろよ。」 「やっぱり行かせるんじゃなかった。この部屋につないで、閉じ込めておけば良かった!」 ギラギラとした目で見つめられ、背筋がゾッとするような恐ろしさに我慢出来ず、大声が出た。 「玉井っ!!」 その目のままで口だけ微笑みながら、 「優大…だろ?哲雄。ん?」 僕の唇を親指でなぞりながら、玉井が囁く。 「やめろって!」 恐怖から振り払おうとする手を玉井が掴む。 「このままのこの手も愛しいが、これをつけた時のお前の手が一番愛おしいよ、哲雄。最高に似合ってる。お前もそう思うだろう?」 そう言って、ベッドに昨夜のままで置いてある拘束具を手に取った。 ぐっと掴まれた腕を引っ込めようとするが玉井の力は強く、まったく相手にならない。 「ほら、名前。呼ばないならこれを使って呼びたくなるようにしてやろうか?ただ、それをお前を迎えに来る山野に見られてもいいなら…だけどな。」  「くそっ…」 「汚い言葉、使うなよ。ほら?」 それがどんなものかわからないまでも、拘束されて玉井にいいようにされてる僕の姿であろうことは容易く想像できる。そんな恥ずかしい姿を幸也に見せるなんて、絶対にイヤだ! 幸也に見られない為に仕方なく呼ぶんだ…そう、仕方なく…。 それを言い訳にして、いやいやながら玉井の名前を呼んだ。 「ゆ…優だ…い。」 「ふっ。可愛いな哲雄は。」 柔らかな微笑みと、よく出来ましたとでも言うかのように頭をなでる優しい手にくすぐったい気持ちになった。 それを隠すように、撫でる手を払って憮然としながら言う。 「名前で呼んだんだから、もういいだろう?離せよ。」 「キスは?」 「はぁ?」 「お前からキスされた事ないんだけど、俺。」 「それは…だって、いつもお前が無理矢理っ!」   「優大だろ?名前で言わなかったらペナルティな。」 「ペナルティ?」 「一回につき一日拘束。」 「なんだそれ?そんなのおかしいだろ?!」 「おかしい…か。それは対等な場合の話だな。 でもこの状況で俺とお前とどちらに相手への支配権があると思う?」 「支配権?」 「こうやって、俺に組み敷かれているお前に、どうしたら俺に対抗できる?って聞いてる。」 「それは…」 「哲雄が俺をなぎ倒して、組み敷ける、って言うなら話は別だがな。」 やれるものならやってみなとでも言うようにヘラヘラと笑う優大に、顔がカッと熱くなった。 「っざけるな!」 そう言うと、体を全力でばたつかせた。 「へぇ?」 優大が一瞬ひるんだように見えたが、すぐさま片手で簡単に両手首を掴まれ、足を絡めて僕を動けなくした。 「頑張ったって、俺には勝てないって今までの体験でわかっているだろ?体はとっくに理解してると思うけどな。こことか…さ。」 優大の手が下半身を布の上からなぞり上げる。 「…めろ。」 声が出そうになるのを、唇を噛んで我慢する。 「やめろ…ねぇ?ここは十分俺の手に反応してるみたいだけれど?」 言われる通り、熱が集まりずくずくんと脈打っているのを感じる。 「そろそろ本当に山野が来る頃だな?」 「玉…優大っ!!」 「危なかったなぁ。」 くっくっくと笑う優大に 「キスしてやるから手を、外せよ。」 「…片手ならな。」 頷くと優大が片手だけ解放した。 そのまま優大の頭をぐっと引き寄せると、唇を合わせた。 「へぇ?」 そう言って優大がニヤッと笑う。 体力で勝てないなら、こっちでならどうだとばかりに僕が舌を絡め、優大の口中を舐る。 暫くは僕にされるがままだった優大が 「もういいか?」 そう言って、僕の舌を絡め取り、逆に僕の口中にぐっと押し入って舐り出した。 すぐさま僕の体が反応して、体中が優大の愛撫を欲しがる。 「んんっ…んっ…ん…」 いつの間にか腕の戒めは解かれ、自由になった両腕が優大の頭を掻き抱く。 口からはその快楽に甘い吐息が零れ出た。 下半身にそっと触れているだけの優大の手に、擦りつけるように勝手に腰が動く。 「はぁ…ん…イか…せて…ん…」 「俺に支配されてるって、理解はしたか?」 「した…からっ!優大っ!!!」 僕の体が切なくて苦しくて、早くこの状況から解放してくれと叫ぶ。 腰がベッドから浮き、ただただそこにおいてあるだけの優大の手に、ぐりぐりと先ほどよりも強く擦りつけた。 「仕方ないな…希み通りにしてやるよ。」 言葉とは裏腹に嬉しそうな顔でそう言うと、優大の手が僕のズボンのチャックを下ろす。 その間も優大の手から受け取ることになるであろう快楽への期待に昂る僕の下半身を、その期待を裏切る事なく、寧ろ期待以上に僕の体を喜ばせ、その興奮の内に優大がつけてくれたコンドームの中に白濁の液体を放出した。

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