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第36話

幸也の心と体を犯し続けていた犯人がこの世からいなくなり、僕達の関係にも一つの形ができ、残る憂いは幸也の中に宿っているかもしれない生命。 幸也はその子の親が自分を犯した相手だとしても、産みたいという強い決心をしていた。 僕も優大も、幸也もその子も守るという結論を出し、優大はお兄さんにその事を伝えていた。 ただきちんと話を聞くと検査をしたとかではなく、お兄さんと幸也との問診の中でその可能性があるという事だったらしい。 しかし僕との事をきいていたお兄さんが、昨日の今日でそのようなことがあるはずがないと不審に思い、話を聞こうとしたが、幸也が例の話を内緒にしたいが為に口をつぐんでしまったという事だったようだ。 「じゃあ、妊娠の話は五分五分ってところか…」 幸也から話を聞いた優大が天井を見上げて呟く。 「俺、みんなに迷惑ばかりかけてるな…。」 俯いて悔しそうに幸也がつぶやく。 「幸也が謝る話じゃねーよ!」 優大が幸也の背中を叩いた。 「いたっ!」 叩かれて、幸也の背筋が伸びた。 「そうやって顔上げてろ。殊勝な幸也なんて気持ち悪いわ。」 そう言って再び幸也の背中を叩いた。 「だから痛いって!俺は優大と違って華奢なんだから、バシバシ叩くなよな!」 張りのある声で優大に立ち向かう幸也を見て僕と優大は顔を見合わせて笑った。 その後の検査の結果、幸也のお腹の中には生命は育まれていなかった。 その兆候すらもなかった。 その結果を聞いた幸也が、いつも通り優大の部屋で待つ僕達のところに駆け込んできた。 …さすがにこの日は優大もおとなしく待っていた。 「いないって!妊娠してないって!!」 開口一番、幸也が僕達に報告してくれた。 「マジか⁈」 「本当に?!」 僕と優大が口をそろえて言う。 うんと頷く幸也に良かったねと言うと、嬉しいんだけどさと言いながらも、 「本当はちょっと寂しい。相手が誰であれ、子供ができたって思ったら、なんだか嬉しくて。凄く愛おしくてさ。だから、いないってわかった今はちょっと…すごく寂しいんだ。」 そう言って、お腹をさすりながらポタポタと涙を零した。 「幸也!」 僕がその体を抱きしめ、優大がティッシュで涙をふく。 「俺、産みたかったな。」 「うん。」 「そのうち、たくさん産んでもらうさ、お前には。」 優大の言葉に幸也と僕がえ?とその顔を見る。 「おい、俺との子じゃねーぞ。お前と、哲雄の子だよ。俺の愛してる哲雄の子は俺の子でもあるからな。幸也にはバンバン産んでもらわないとな!」 「あぁ、びっくりした!」 幸也の涙が止まり、大声で笑う。 「やめろよ、お前となんて冗談じゃない。」 優大もやだやだという風に手を振って笑った。 想像の域を出ないがと前置きしたお兄さん曰く、多分この妊娠騒動は無意識の内に幸也が周囲に犯されているということを知ってもらい、助けを求めるためのものだったんじゃないかと。僕との事があって、妊娠してもおかしくないという状況を得た体が、そういう何か信号みたいなモノを出したんじゃないかと。 そう言われてみれば、そうかもと幸也も頷いていた。 しかしいまだにあの匂いが何だったのか、お兄さんは頭を悩ませているようで、 「あの匂いに関してだけはどうしても説明ができない。薬がどうして効いているのかもわからない。まぁ、大丈夫だとは思うんだけどな。」 そう言われても注意しようがないからなぁと、優大がぼやくのを幸也と僕も頷いた。

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