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第三章・6
「好きなんだ、俺は。清水くんのことを」
1+1=2、くらい簡単な話だ。
好きで、食事に誘って。
他の男に触れさせたくない一心で、指名して。
「だのに、抱かない」
そんな話が、あるか。
だけど。
「仕方ないだろう。清水くんに、嫌われたくないんだから」
客という立場を利用して、彼の身体を好きに弄る真似はしたくない。
しかし、その一方で、祐也を抱きたい自分もここにいる。
「どうしたらいいんだ」
少年の頃から、恋や愛に憧れ、溺れ、傷ついて来た。
仕事仕事で、結婚とは程遠い暮らしを重ねて来た。
「今夜、キスしてみよう」
和正は、決心した。
一歩、踏み出すんだ。
そうすれば、道は開ける。
「良い方に、開ければいいけど……」
やたら臆病な自分も、確かにここにいた。
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