31 / 97

第三章・11

 2時間たって、再びボーイズ・バーへ現れた和正は、清掃中なので今しばらく待つようにと言われ、椅子に掛けて待った。 (男の匂いを消したり、シャワーを浴びたりしてるんだろうな)  そう考えると、ただただ切なかった。  ようやく部屋へ案内されたころには、まるで恋人を寝取られた男のような気分だった。  失意の和正とは裏腹に、祐也の声は変わらず優しかった。  そして、お決まりのセリフで出迎えた。 「来てくれたんだね、ありがとう!」 「清水くん!」  部屋に入って来た人間が和正と解ると、祐也は途端に両手で顔を覆い、下を向いてしまった。 「ごめんなさい、鳴滝さん。ごめんなさい……」 「何、言ってるんだよ。謝ることなんか、ないよ」 「僕、こんな人間なんです。鳴滝さんにはふさわしくない、汚れた人間なんです」 「お客をとることが汚れてる、なんてことないさ。顔を上げて」  これは仕事なんだ、君は悪くない。  そう、和正は繰り返した。  祐也に向けながら、自分にも言い聞かせていた。

ともだちにシェアしよう!