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第三章・11
2時間たって、再びボーイズ・バーへ現れた和正は、清掃中なので今しばらく待つようにと言われ、椅子に掛けて待った。
(男の匂いを消したり、シャワーを浴びたりしてるんだろうな)
そう考えると、ただただ切なかった。
ようやく部屋へ案内されたころには、まるで恋人を寝取られた男のような気分だった。
失意の和正とは裏腹に、祐也の声は変わらず優しかった。
そして、お決まりのセリフで出迎えた。
「来てくれたんだね、ありがとう!」
「清水くん!」
部屋に入って来た人間が和正と解ると、祐也は途端に両手で顔を覆い、下を向いてしまった。
「ごめんなさい、鳴滝さん。ごめんなさい……」
「何、言ってるんだよ。謝ることなんか、ないよ」
「僕、こんな人間なんです。鳴滝さんにはふさわしくない、汚れた人間なんです」
「お客をとることが汚れてる、なんてことないさ。顔を上げて」
これは仕事なんだ、君は悪くない。
そう、和正は繰り返した。
祐也に向けながら、自分にも言い聞かせていた。
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