49 / 97
第六章・2
書斎の広いデスクの上には、パソコンや書籍が置いてあった。
そして、その脇の本棚のひとつが丸々一段開いており、そこにはフレームに飾られた写真があった。
「僕の、両親だよ」
まだ若い、50代の男女の笑顔が、そこにはあった。
(そういえば、和正さんは故郷へ帰った時、御両親に会いには行かれなかったな)
と、いうことは。
「二人とも、亡くなったんだ。自動車事故で」
(やっぱり……)
飲酒運転の車が中央車線を越えて、和正の両親が乗った車に正面衝突してきた、という。
「和正さん……」
「大丈夫。もう、乗り越えたから」
両親とも保険に加入していたので、莫大な額の保険金が和正に支払われた。
加害者の方からも、多額の賠償金が払われた。
「そんなこんなで、なりたくもない金持ちになっちゃった、ってわけ」
生きてたら、素敵な恋人を紹介してやったのにな、と和正は写真のフレームを指ではじいた。
「僕、お参りしてもいいですか?」
「いいの?」
「お参り、させてください」
祐也は手を合わせて瞼を閉じ、和正の両親に祈った。
(これから、お世話になります。どうぞ、よろしくお願いします)
「ありがとう、祐也」
自然と、和正も目を閉じていた。
ともだちにシェアしよう!