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第七章・4

 祐也がマンションに入ってから、和正の部屋はどんどん瑞々しい潤いを増していった。  床はロボット掃除機がきれいにしてくれるので、祐也はその他の点に気を配った。  出窓の埃は、毎日ハンディモップで拭き取った。  キッチンの道具類も決められた場所に片付け、シンクはいつもピカピカに磨いた。  バスルームのタイルも、目地にカビが付かないよう念入りにこすった。  そして、いろんな場所に、いろんな種類のグリーンを飾った。 「これが俺の部屋とはねぇ~」  見違えるようだ、と感心する和正に、祐也は心配そうに尋ねた。 「僕、余計なことしてませんか? もとのシンプルな部屋に、もどしましょうか?」 「いや、ここはもう俺一人の部屋じゃない。祐也の部屋でもあるんだから、好きにして欲しいよ」 「和正さん」  どうしよう。  抱きついちゃいたい!  でも……。 「ん? どうかした?」 「いいえ、何でもありません」  感情をあらわにし、行動を起こすことが祐也は怖かった。  もし、拒まれたら。  そんな臆病な心が、まだ彼の根底には、あった。

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