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第八章・4

 和正は、キッチンに座って目を疑った。 「甘酢肉団子」  見るからにこってりとしたその料理は、和正が食べたかったものとは真逆だった。 「祐也、メール見た?」 「見ました。だけど、もうそれを買った後だったから……」  祐也の心臓は、ばくばくと鳴っていた。 (和正さん、怒るなら、怒って見せてください!)  和正は、何も言わなかった。  ただ、肉団子を箸で口に運んだ。 (無言!?)  祐也は、ぞっとした。  無視される冷戦は、一番恐ろしい怒り方だ。  だが、和正は次の瞬間には、笑顔になった。 「美味い! これ、どこの店の料理? 並んだんじゃない?」 「和正さん……」 「胃にこたえるかと思ったけど、意外にいけるよ。ありがとう」  食欲のない時こそ、スタミナ付けなきゃね、と和正は二個目の肉団子に箸をつけている。 「祐也も、食べて。美味しいよ」 「はい。ありがとうございます」  食べながら、祐也は涙をにじませていた。  

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