71 / 97

第九章 お客様、どうぞ星空の旅へ……

 和正は、迷っていた。 「聞いてくれる? 祐也。俺の悩み」 「僕でよければ」    実は、と祐也の淹れてくれた緑茶を飲みながら、和正は打ち明けた。 「ヘッドハンティング、された」 「えっ!?」  大手のイベント会社から、好待遇を約束するからこっちへ来ないか、と誘われた。 「今の会社を辞めて移れば、課長だって」 「和正さんは、今の会社に未練があるんですか?」 「あるといえば、ある。無いといえば、無い」 「悩んでますね、和正さん」  そうなんだよ~、と和正は頭を抱えた。 「職場は少し遠くなるけど、このマンションから通えない距離じゃない。ただ……」 「ただ?」 「プラネタリウム『銀河』が、遠くなる」  まだ『銀河』へ時折通って、祐也のナレーションを聞きながら星々を眺めることを楽しみにしている和正だ。  それができなくなるのは、痛かった。

ともだちにシェアしよう!