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第十章・6

 以前、祐也は言った。 『僕、過去はもう捨てたいんです』  あの言葉の意味が、明かされるのだろうか。 「僕は、ごく普通の家庭に生まれ育ちました」  和正は、聞き入った。 「両親は、愛情をもって僕を育ててくれました。僕も、大人になったら両親のように仲良く、温かな家庭を築きたい、と思っていました」  だが、祐也の心に異変が生じた。  小学校高学年の頃だった。 「僕を、よくいじめる男子がクラスにいて。ドッジボールやったら剛速球当ててくるし、サッカーやったらマークがきついし」  でも、と祐也は少し笑みを浮かべた。 「僕が誰かにシューズを隠された時、一番一生懸命探してくれたのは、彼だったんです」  僕の、初恋の人になりました。  そんな祐也に、和正は顔も知らない小学生に妬いた。  だが彼は、その後は笑顔を見せずに語った。

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