85 / 97
第十章・6
以前、祐也は言った。
『僕、過去はもう捨てたいんです』
あの言葉の意味が、明かされるのだろうか。
「僕は、ごく普通の家庭に生まれ育ちました」
和正は、聞き入った。
「両親は、愛情をもって僕を育ててくれました。僕も、大人になったら両親のように仲良く、温かな家庭を築きたい、と思っていました」
だが、祐也の心に異変が生じた。
小学校高学年の頃だった。
「僕を、よくいじめる男子がクラスにいて。ドッジボールやったら剛速球当ててくるし、サッカーやったらマークがきついし」
でも、と祐也は少し笑みを浮かべた。
「僕が誰かにシューズを隠された時、一番一生懸命探してくれたのは、彼だったんです」
僕の、初恋の人になりました。
そんな祐也に、和正は顔も知らない小学生に妬いた。
だが彼は、その後は笑顔を見せずに語った。
ともだちにシェアしよう!