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第十章・8
大学は、故郷から遠い地を選んだ。
学費は奨学金とアルバイトで賄い、両親にはいっさい頼らなかった。
「もう、何年も帰ってません。電話もしないし、連絡もありません」
祐也は教育学部で、理科を専攻した。
子どもたちに、地学の、星の楽しさを学んでほしかったからだ。
だが、地元大学の教育学部を出た学生の方が、だんぜん採用されやすい。
よそ者の祐也は、教員採用試験に落ちた。
「何とかプラネタリウムの委託職員になりましたが、僕は荒れました。もう、自分がどうなってもいいとさえ思いました」
奨学金の返済のためでもあるが、ボーイズ・バーで働くことで自分自身を傷めつけていた。
不特定多数の男たちと交わることで、現実から逃げた。
「僕は、生きている価値のない人間なんです」
和正は黙って聞いていたが、優しく祐也の涙を指でぬぐった。
「辛かったね。でも、生きている価値、充分にあるよ」
俺はもう、祐也なしでは生きられないんだから。
話してくれてありがとう、と和正は祐也の頬を両手でそっと挟んだ。
彼の目にも、涙が浮かんでいた。
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