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第十一章・2
「じゃあ、お祝いに寿司食べに行こう。初めて二人で食事した、寿司屋」
「わぁ、懐かしいな」
そう言って笑う祐也の表情は、すっかり明るくなっていた。
(やっぱり、転職しなくて正解だったな)
そして和正には、転職しなかったもう一つの理由が生まれていた。
「祐也に、相談があるんだけど」
寿司をつまみながら、和正は軽く話しかけた。
相談というには、あまりにも深刻さのない声だった。
「何ですか? 次に食べるお寿司を何にしようか、とか?」
「ん、似たようなもの」
実はさ、と少しだけ身を乗り出して、祐也を見る。
彼のあどけない表情は、すっかり油断しきっている。
「会社、辞めようと思うんだ」
「えぇっ!?」
和正の爆弾発言に、祐也はむせた。
「大丈夫? ほら、お茶」
「あ、ありがとうございます」
お茶で寿司を流し込んだ後、祐也は声を張った。
「どうしてですか? 夏のイベントも大成功で、次の企画も目白押し、なんて話してたのに!?」
「自分で、起業しようと思って。祐也は、どう思う?」
「独立、ですか……」
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