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第2話一ノ瀬音也
22歳大学4年生を迎え、本格的に就職活動を始動させていた一ノ瀬は、トレンドマークでもあった赤髪を潔く、バサリと切り落とし、黒く染め直した。
そして、以前の説明会で言われた「服装に気をつけること」を念頭に置いて、玄関先で身なりを確認する。
きちんとスーツを身に包んでいる。
今度こそ失敗はしないだろう。
以前参加した説明会は社長自ら登壇し、相談・面談のブースを周って就活生となるであろう学生を見ていたようだ。
そして言葉を交わしたあの経験を生かさんと、説明会に参加する度に上層部や社長がいる企業にはトップに話しかけた。
やはりベンチャー企業の社長は若いだけでなく、学生の意見も一意見として頭の片隅にでも置いてくれるかのように、対等な言葉で話す。
だが、一ノ瀬の脳裏に浮かぶのは、はじめにインパクトが大きかった一十木社長であった。
しかし、就職とは、会社も求職者も消耗品のように、巡り合わせとタイミングが大事だ。
結局、一十木社長のところの説明会後のイベントは4年生を対象都していたために、一ノ瀬は対象外であった。だからこそ、上司との対面は叶わなかった。だが、今回はそれも叶い、相手側からヘッドハンティングされる形で内定を早々に勝ち取ってしまった。
一ノ瀬音也、4年の春先で内定を勝ち取った。
「最近、一ノ瀬余裕じゃない?」カウンターのバーでサシ飲みをする一ノ瀬と友人の加持健斗。暗がりの雰囲気のあるバーで、大学生がくるには落ち着いたところである。
そのためか、入店して真っ先に二人は年齢確認をされたのは、大学4年間で通例行事となりつつある。
一ノ瀬は、優雅にグラスを回し、色の変化を視覚的に楽しんでから、口に含む。これぞ、大人の酒の嗜みである、と言わんばかりだ。
「俺、もう内定もらったから、就活から一足先に抜けたんだよ」
「えーいいなー。僕もさっさとこの地獄から抜け出したい……面接しに会社にいってんのに、社会見学に来たんですかって言われんの!」
「え、マジで? それって、嫌がらせか?」
「違うよー! ちっさいから勘違いしたしたんだよ。しっかりリクルートスーツ着てるっつの」
「流石に俺は経験ないな」と一ノ瀬より一回り背丈の低い加持に、一線を引いた。
「何いってんの、僕ら此処に来て即年確されたじゃん。一緒だよ」
「いーや、俺は健斗と違って雄々しいから、年確されたのは二人っていうより健斗のせいってのが大きい!」
「まぁ、確かに? 小さい割りに? ゴリラっぽいからそうかもしれないね」猫目な加持が嫌味をたらしく上目遣いをして見せる。
「おー、可愛いと言われるよりマシだ」
「えーつまんまいの。でも、可愛いは正義だよ」
「んぁ?」
クスッと笑みをこぼして加持はいう。「可愛ければ、なんでも許される。それこそ、今の就活だって」。
「色仕掛けでも通用するってか?」
「僕は通用してきた方だよ!」
「羨ましいこったな」
「……でも、こんなのはただの目眩しくらいにしかならないのはちゃんと理解してるよ。でも、これは僕の武器だから。使わないなんて損でしょ!!」
「そんくらい堂々としてるならいいんじゃね」
「否定しないなんて、音也だけだね!! もう——大好き!」
「お客様」とバーテンダーに諌められるまでが、お決まりとなっている。
スマホのバイブレーションをちくわ耳で通過させて、その日は加持と飲んだくれた。
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