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第3話
翌日、登録していた就職サイトから再通知が表示されて、ようやく昨日の通知が就職サイト発信であることを認知する。
内容は、一十木社長の経営するベンチャー企業へのスカウト——実質内定の招待状であった。
「あちゃー。タイミングがあと少し早かったら良かったな」
むいむい、フリック入力でお断りの旨を打ち込んでいく。一十木社長のような真に詰め寄る企業はそういないが、一ノ瀬のフットワークの軽そうに見える物腰や、直情的な発言で、早々に内定が決定した。
謝罪文を打ち込み終わり、一息ついた。
もったいないことをしたかもしれない、そう直感的に感じてしまっているのだ。
週一になった大学に行くため、家を出る前に鏡を見て全身を確認する。
「っし、行くか。大学にスウェットで行ってた頃と比べると、随分と俺も変われたもんだな」羽織ったジャケットを正して鏡から視線を外して、外へ出た。
数ヶ月後、内定者だけが集まる親睦会に会社へ集められた。
無論、この日も外出前には鏡で全身をチェック済みである。
学生時代最後の夏休みは、こうして徐々に会社の呼び出しや資格取得の勉強で潰れていくのだろう。
「あ、一ノ瀬!!」
「え!? 健斗じゃん! お前も此処に内定決まってたのか!」
「あー、うん! 僕はニコニコして面接頑張ったからね」
「俺ら、同期だな!」
「うん、僕めちゃ嬉しい!!」
茹だるような暑さを感じさせない爽やかさを放つ加持は、破顔して一ノ瀬の隣を歩き社内へ足を踏み入れる。
「一ノ瀬……君?」前のエントランスホール付近のエレベーターから出てくる人物が声を掛ける。それも目を細めて。あまり目は良くないらしい。
「一十木、社長」
「ちょうど1年ぶりですね! 偶然ではありますが、お会いできて良かった」
一十木はヒジネススーツを身にまとい、インテリジェンスさが際立っている。後ろに引き連れているおそらく年上の部下もいて、敏腕ぶりを匂わせる。
「去年はタイミングが合わなくて、将来上司になるであろう教育係と対面させることができなくて申し訳なく思ってたんです。この場をお借りして、謝罪します」
「え!! そんなやめてください!!」
頭を下げる一十木に慌てふためく一ノ瀬に、「貴方の提案はすごく妙案だと思ったので、発案者である一ノ瀬君にその場を与えてやれなくて……。ですが、この提案を我々はインプット、さらにアウトプットしまして、今年はいい人材募集になりました。——一ノ瀬君も面接に来ると思っていましたが、先約があったようで、とても残念でした」理路整然、かつ角がにょき、と生えてくるような言い方をした。
「こちらもその件は申し訳ありません!」
「——いえいえ、お互い様です。ですが……他の説明会等のイベントでも上司との対面を、と仰ったそうではありませんか。ITのベンチャー企業界隈ではちょっぴり有名人ですよ。なんだか妬けちゃいますね」
「その噂を聞いて、私は一ノ瀬君だとすぐに気づいて、起業している仲間にそういった機会のイベントをやろうと持ちかけたまではいいんですが、時既に遅かったようで……我々と同じように上司と対面できる機会を得て、そして、その会社で働きたいと思える上司で、内定が貰えて——そういった流れだったことでしょう」いやに一ノ瀬の肌に突き刺さるのは、気の迷いでもなんでもないらしい。
一十木は、視線を鋭くさせている。
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