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第6話

 ——一十木自身の思惑、願望、欲気と似ていることを互いに認知した。  今回、サシで飲みに行き、本気で口説き落とすつもりであっただけに、鈴木と小さい男が邪魔で邪険に扱ってしまいそうである。  だが、一ノ瀬の御前だ。  努めて平静に、「まだまだ駆け出しのベンチャー企業の長ですので、狭い車内ではありますが、是非」と案内する。  もちろん、一十木は車内での座席配置を、一ノ瀬の隣にと考えていた。  「お邪魔します」一ノ瀬が先に乗り込む。こういう潔さは健在らしい。  続いて、さらに小さい男が乗り込み、鈴木を最後に乗せることになった。  向かい合わせで座るのに、社長一人と学生三人の対比で乗ることが至極当然であるだろう。  しかし、積極的に乗り込まなかった鈴木は、息をするように社長の隣に着座した。 「……。では、此処から目的地まで距離もありますし、一ノ瀬君のお連れの方々の自己紹介からお願いしましょう」 「はい! 私からしますね。改めまして鈴木麟太郎と申します。一ノ瀬君と同じところに内定を貰いましたが、将来的には独立を目指しているので、人脈を作るために無理言ってこの場に居させてもらってます」  一ノ瀬の隣の小さい男が「うわぁ……強引な上に図々しいとか、ないわ」と蚊の鳴くようなボリュームでぼやいた小言も、しっかり一十木の耳に入る。 (この人とは相容れないと思っていましたが、これだけは合致するようですね) 「次、一ノ瀬君の隣の方は——」  一十木がMCとして振った。それに瞬時に反応し臨戦態勢をとってくる。  「僕は、音也の付き添いなので、どうぞお気になさらず」あっさりと、振られた話の腰を一刀両断。   「おい! 何のためについてきたんだよ、健斗」 「……構いませんよ」 (……付き添いなら、空気のように扱っても構わない、という風に捉えますよ? しかし、それでいて、蚊帳の外に感じたら、割って入ってくるのでしょうね、きっと……。なぜ一ノ瀬君の周りは、こうもクセが強いんでしょうか)  嘆息を一つこぼして、その後は小さい男を無視する形で話を進めた。だが、一ノ瀬をメインに聞いているつもりであっても、鈴木が懐に入り込んでは邪魔をする展開が店に着くまで続いた。  しかし、一十木は依然として、平静を貫いた。 (……後少し到着が遅れていたら、受け流すことができなかった。今回は時間に救われましたね。——ただ、布石は散々撒いておいたので、それが刺のある植物に育つのを楽しみに待つだけです)  一ノ瀬が車から降りる頃には、鈴木は一十木と親しくなったと自負のある雰囲気をまとい、名乗りもしなかった健斗と呼ばれていた小さい男は、一十木を完全に敵視したままだ。    一十木は沸点を下げることしかしなかった二人と閉鎖的空間から逃れられ、ついでに時限付きのまきびしを撒くことに成功したのだ。  だからつい、ほくそ笑んでしまう。  二人の暴走を咎めない一十木は、入店後も接待気分で一ノ瀬とその他を接した。

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