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第11話

「——就活って、俺らの人生を左右する大事な分岐点だけど、企業側も必死なんですね。学生優位な時代っていっても、やっぱり採用担当の人は見下しにかかってるっていう偏見が取れなくて……」 「ベンチャーではあんまり見ませんが、その偏見もあながち間違いではありません。私は、てっきりそれを見抜くための上司との対面を提案だったと思ってました」 「っそんな策略思いつきもしませんでした。そんなアホな頭の俺をわざわざ家にまで呼んで、丁寧に説明してくれるなんて、それこそ時間の無駄——」 「ではありませんよ。私、一ノ瀬君のオムライスすごく好きです!!」  一ノ瀬が呆気にとられるのは言うまでもない。  「たしかに、時間を割いてでも欲しい人材ではあります。ですが、それ以前に、一緒にお昼を過ごしてすごく楽しかったですよ」一十木社長は嬉々としていうので、徐々に絆されている。  夕刻まで部屋に上がり込んでいたが、ヘッドハンティングの話をしたのは僅かな時間であり、残りは全て談笑に溶けていった。  自宅についてからは、一人考える時間が訪れ、静寂が我に返す。   (……内定式までやっていないうちで良かった。大学側には呼び出し必至で絞られるだろうけど、あの人について行くのが正しい気がする)  それから、一ノ瀬は一本の断りの電話を入れるのだった。  翌日、早速大学から呼び出しの電話が入っている。  授業のない日に呼び出される憂鬱さと、内容が十中八九あの件なのだから、余計に鬱屈とする。ため息の数も平均より多めだ。  構内のとある一室までの道中で、数日ぶりの加持と出くわした。  一ノ瀬を見つけるなり、花が綻ぶような満開の笑みをこちらに向けて、駆け寄ってくる。その次にようやく一ノ瀬とゴタついたことを思い出したのか、罰が悪そうに駆け足から行歩に変わった。 「お、おはよう音也」 「おはよう、今日は授業があったんだな」 「そ、そうなんだけど……音也は確かなかったはずだよね?」 「大学に呼び出しを食らって出てきたとこ」 「呼び出し?!」  呼び出されるようなことを一ノ瀬がするはずがないとでも思っていたのだろう、気まずい雰囲気を一気に消炭にしてくる。  くわえて、就活時期で内定も出ている一ノ瀬が呼び出されることは、非常事態といってもいい。  「何があったの?!」疑うより心配の言葉をかけてくる。 「……ちょっと、やらかしたんだよ。多分、飲み過ぎたあの日が原因だろうな」 「あの日?! あの日ってどの日?!」 「もう、あんま俺に関わるな。共犯だと思われんだろ」 「そんな……。それってきっと、この前僕が出しゃばったことで、一ノ瀬が向こうの社長さんに頭を下げることになったから、それで飲んで——じゃないの?」 「俺がそんなことぐらいで飲んだくれるかよ。単純に飲み過ぎて、酔った勢いで何かやらかしたんだろ。記憶ねぇんだから、しょうがねぇよ。相手様にも謝罪しなきゃだろうし、もう、行くわ」    「待って!! 僕も行く!!」一ノ瀬の袖を掴んで引き止める。 「付き添うよ。学生相手だからって、一方的に言わせておけないし」 「や、要らない」 「何いってんの? 音也が飲み過ぎて記憶にないくらい酔ってたとしても証拠がなければ僕、信じないから。そんなことで、内定取り消しとか、退学とか、させないから」  今度は一ノ瀬が言葉に詰まり、焦燥感を出してしまう。 「いいって!! 実はあらかた用件は分かってんだよ!!」 「分かってるなら、尚更僕が行かないと、事実とは違うならはっきり言うべきだよ! 僕がそのお手伝いするからさ!!」  にじり寄って説得しようと頑張れば頑張るだけ、一ノ瀬の行き場のない苛立ちは募っていく。  掴まれた袖を振り払って、半ば強引に突っ切って歩いた。    「……ねぇ。どうして今日はそんなに強引なの?」加持は呟く。  他にも学生はわらわらと移動しているところで、一ノ瀬は加持の声を聞き取ってしまった。素直にも、立ち止まって動揺を顕にする。 「おかしくない? いつもの音也ならなんだかんだ教えてくれるじゃん」 「……言えねぇよ」 「ほら、言えないことは教えてくれる。——っ、まさか」 「も、もう行くから! 時間ギリギリになっちまった」

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