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第1話 ふてぶてしい従者
『魔術師の塔』――最上階。
全面がガラス張りという特殊な構造をした部屋だ。見渡す限りの蒼空を一望できるその部屋に立つと、まるで空の中にいるかのような錯覚を抱く。
別名『儀式の間』。
魔術師の塔に住む少年・少女――すなわち、魔術師の卵たち――は、その部屋に集められていた。
誰もが緊張で強張った面持ちをしている。室内は物々しい雰囲気に満ちていた。
1人の少年が、部屋の中心部に歩み出る。
金髪碧眼の少年だ。歳の割には落ち着いた面差しをしている。彼は床に描かれた巨大な魔法陣の中央に立った。
片手を前へ出し、滔々とした声で唱え始める。
「≪天上に住まう・神々に仕えし妖魔 よ・古き盟約に従い・我がしもべとなり・ここに現せ≫」
彼が呪文を唱え終えると同時。
魔法陣の円周に光が灯った。七色に輝き、光が立ち上る。
次の瞬間、少年の前には巨大な影が佇んでいた。
竜だ。
その巨体は水色の鱗に覆われている。まるで水面が光を反射して輝くかのように、全身に光の粒子をまとう。目を見張るほどに美しい竜だった。
竜は翼を折りたたみ、少年に頭を垂れる。
「わあ……!」
年若い者たちの歓声に交じり、
「おお……」
と、大人からは感嘆の声が上がる。
部屋の奥で儀式を見守っていた年長者――魔術師の塔に仕える『教師』陣だ。少年・少女たちと同じくローブ姿。格好がなじんでいない様子の若者と比べて、教師勢は年季が入り、落ち着き払った出で立ちをしている。
その中でも一際、高級そうなローブに身を包んだ男が前へと進み出た。
白いひげを長く垂らした初老の男だ。こけた頬に、ひょろりと上背の高い痩身。しかし、貧相な風ではなく、それがむしろ怜悧な雰囲気へと昇華されている。
この塔の最高責任者たる、『学園長』だった。
「なるほど……【イルヤンカ】。『ドラゴン』ですか」
彼がそう告げると、『儀式の間』にざわめきが走った。
「すげえな……『ドラゴン』だってよ」
「この塔の歴代の先生だって、ドラゴンを従えることができたのはたったの3人だけだろ?」
「さすがはエルムさんだわ! でも、当然よね。エルムさんは彼の有名なバルト家のご子息ですもの」
「いやはや。今年の新入生はなかなか豊作のようですな」
彼を褒め称える言葉が飛び交う。弾んだ声は学生のもので、誇らしげな声は教師のものだ。
誰もが感心の眼差しを少年へと送った。
部屋の中心に佇む金髪の少年――エルム・バルトへと。だが、渦中の少年は嬉しそうにするどころか、まるで興味がなさそうにクールな面持ちを崩さない。
そこが周囲からすればますます格好よく映るのだろう、より尊敬の視線を集めていた。
部屋全体が沸き立つ中――
(……神様……お願いします)
周囲の盛り上がりを意に介さず、祈り続ける少年がいた。
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