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第5話
「お疲れ様でーす」
持って行きたくないとは言えるはずもなく…取り敢えずやって来てみた
「これ。お願いしまーす」
声を掛けると奥から人影…頼みます頼みます…あの人じゃありませんように…そんで違う人でその人にこれをあの人にって言えば良い!そうだ!そうなんだ!!
「…お疲れ様です」
休憩時間は部署によって違う。うちの休憩開始の20分後からがこの部署の休憩なのだ。だからあの窓口さん…もとい…溝口さんが出てきてくれるはず…いつもそうだから…それなのに…出てきたのは…何で本人よ!何でよ!?
気まずい気まずい気まずい…あ…でも…待てよ…あぁぁぁ!!!さっき初めて声聞いたぁ!!
顔によく似合う低めの地を這うような腹にずしっと響くような…良い声だった…
脳内はもう色んな感情で大騒ぎしてる
「…あの…」
「はぃ!」
うーわ…カッコ悪…声裏返った
「あぁ!!すいません!これ!これお願いします…じゃあ!お疲れ様です」
「…ありがとうございます…」
お…お礼も言えるんだ…って当然だけどあまりにも良い声過ぎてぼんやりしてしまう。ぼんやりしてる暇なんてないのに…
「ああ!ありがとうございます」
なんて謎に自分もお礼をいって立ち去った
そのまま近くのトイレに駆け込んで頭を抱える
「…マジか…最悪だな」
俺の俺があの良い声に当てられて存在を主張してた…
「こんなこと…これまであったことないのに…」
くそ…恥ずかしすぎ…幸い制服は少し丈が眺めのジャンパーなのでわからないはずだけど…
ふーっと息をはいて落ち着かせる。俺の俺が項垂れるのを見届けてトイレから出て休憩室に向かった
「お疲れさまぁ。遅かったねぇ」
「急ぎのを坂本さんとこに届けてきたんで」
「あぁ!あそこね。坂本さん愛想ないよねぇ。挨拶しても返ってこないからもう挨拶するのやめちゃったわ」
「そうなんすか?だめですよぉ。挨拶はしないとぉ。」
「見掛けによらず弦ちゃんは真面目さんねぇ」
「なんすか?それ」
「弦ちゃんどこぞのアイドルみたいに綺麗なのに気さくで素敵よねぇ」
気付けばわらわらと、おばちゃん連中が俺を取り囲む
「ねぇねぇ!本当に彼女いないの?」
「いないっすよ!そんな余裕ないっすわ」
「またまたぁ!」
彼女なんて出来るわけないのだ。だって俺は生粋のゲイですから…まぁ…地元が田舎だもんでカモフラージュで彼女を作ったこともあったけど…やっぱり己を偽って交際するのはとても辛くて苦しくて…だから大学進学を期に都会に出てきたのだ。
そして出会いを求め朋ちゃんたちと出会ったバーへ赴きその日暮らしの生活をしてきたのだ。こんなに心が乱されたことは嘗て無くて…もう自身でもどうして良いかわからないのだ。
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