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第56話
「…聞かないんだね。俺に何があったのか」
辛そうにしてたから無理に聞きたいとは思わなかった。だって…
「話したら天理君が嫌なこと思い出すんでしょ?」
そう思ったから…
「話したことで楽になれるの?楽になれるなら聞くよ?」
「…楽になれるかはわからない。けど…どっちかと言うと怖いかな。千雪に軽蔑されそうだし。それでやっぱ無しってなるときつい」
それはまずない。だって人間生きてると色々なことがあるしそれぞれの人生があるのだから
「ならないよ」
そもそも俺にとって天理くんは特別な人だから…あの日のはにかむ笑顔から何度も俺の頭の中を支配した相手だし小さい頃…側にいて安心できた人だったから
「わかった…俺ね…摂理と違って高校にあがるまであんまりいい環境で育っていないんだ。飯も十分には食べさせてもらえなかった。部屋に風呂もトイレもあったからそれは大丈夫だったんだけどね。テレビや本もない。言葉は大人の卑猥な言葉しか聞けないから碌に話せなかった…俺さ…物心ついたときには既にいろんな大人に…遊ばれてた。性的な意味でね。その理由はこの顔にある。だから顔を出すことなんてできない…したくない。
ずっと…可愛いねって…男にも女にも言われてきた。玩具みたいに扱われてきた…摂理は昔からとても優秀で長男だったから厳格に育てられたし愛情も沢山もらってた。俺の唯一の救いは摂理だった。摂理がご飯を持ってきてくれたり本の読み聞かせをしてくれたり話しかけてくれたり勉強を教えてくれたりした。そんな時間はまだましだったんだ。俺の中で摂理は絶対で一番愛してくれてる人だった」
「ご両親は?」
「母と祖母は早くに亡くなり祖父と父はとにかく忙しい人でなかなか家には帰らなかった。だから俺にされていることは気づいてなかったのだと思う。まぁ。気付いたところで被害にあってるのが俺であれば対処はしなかっただろうな。二人には嫌われていたから」
「何で?」
「…母は俺を生んだ直後…あまり体調が良くなくて…すぐに亡くなったらしい。そのあと俺の面倒を見てくれた祖母は…俺の重なる夜泣きとかであまり眠れず精神的に病み…自ら命を…絶ったらしい…二人とも俺のせいで…亡くなってるんだ…誰も俺のせいなんて言った人はいなかったけど…けど…空気かな?みんな俺を腫れ物を扱うようにしてたし俺を部屋から出してくれなかった。きっと父や祖父に嫌なことを思い出させたくなかったんだと思う」
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