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嵐の前の

 廣瀬はそのことに関してとくに何も言ってこないから、俺もこいつに相談なんかはしてない。  黙々と唐揚げを頬張り、そしてサラダを無心でモシャモシャ食っていたら、向かいにいる廣瀬は何故だかぎょっとした怪訝な面持ちで、俺もつられて眉をひそめる。 「……だって、お前……、サラダ食ってるじゃん。どっか悪いのか?」 「っはぁあー?! 失礼か! お前が草も食えっつったんだろが」 「いやまあそうだけど、前はトマトとか皿の端っこによけてたのに」 「うるせー! 別に好きじゃないだけで、食えることには食えるんだよっ」 「そうなの?」 「そうだよっ!」  何かと思えば、こいつ……。好き勝手言いやがって。  廣瀬は兄貴肌というか、面倒見がいい。  それにかなり助けられることもあるが、今のは普通に腹立ったぞ。  俺をまるで実家の中坊の弟たちみたいに扱ってくる。  嫌ではないが、見くびってもらっても困る。一応お前と同い年なんだが。 「……ふーん。ま、いいけどさ。サラダ食うくらい自暴自棄になったのかと思った」 「ん? なんじゃそら」 「違うんならいいよ。でも、俺そういうの気になっちゃう性分だから」 「……」 「言いたくねーなら聞かねえけど、助けられたくねえなら、俺の前で悩んでる顔すんな」 「へ?」 ……びっくりした。そんな顔に出てたのか?  なんだこいつ、本当に兄貴みたいだな。  いや、俺に兄貴はいないから分からんけど、でも小うるさい姉貴はいるから、そういうときの顔と何となく重なった。 「廣瀬、お前すげーな」 「え、なにが」 「なんか姉貴のこと思い出したわ。あいつさ、普段全く顔合わせねえくせに、たまにめっちゃ図星突いてくんの。エスパーかって」 「ぶはっ、なにそれ。じゃあ今の、図星だったのかよ」 「あー……、まあそれは……でもそんな、悩んでるとかじゃ……」 「歯切れクソ悪いな。言いたくねぇなら聞かねえっつったろ。どうせ遠山のことかなあ、とは思ってたけど」 「エスパー……?」 「あれ、ビンゴ?」  茫然と呟いた俺の一言に、廣瀬はドヤ顔なのに爽やかに笑った。  顔がいいやつはこういうときズルい。超いい奴に見えてくるのが悔しい。

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