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自分なりに
「でも俺イコール兼嗣って思われてんのはなんかちょっとヤだ。訂正してお詫びしろ」
「ははっ、クレーマーか。つかお前ら幼なじみなんだろ、じゃあ大丈夫だ」
他人事だと思って、無責任に何が大丈夫なんだ、と拗ねたまま米をかきこむと、やつはいつの間にか空っぽになった茶碗と豚汁の容器を持っておもむろに立ちあがった。
「美夜飛、唐揚げおかわりする?」
「……する」
「そか。んじゃそれ貸して。腹減ってたら戦できねえからな」
「いや何と戦うつもりだよ、俺ら」
思わず吹き出した俺に、廣瀬は嫌みなく男前に微笑む。
深入りはしない、さりげない気遣いが素直に嬉しかった。
有りがたくて、何だか心がふわりと軽くなった気がして。
そこで初めて、俺は自分が今までずっと気分が暗く落ち込んでいたことを自覚した。
──だけど結局、食堂では廣瀬に話せなかった。
兼嗣のプライベートのことだし、あいつの趣味にケチつけるつもりは昔も今も毛頭ない。
だがあの日記の内容を話すということは、必然的に俺があいつにそういう目で見られていると説明しなくてはならない。
俺自身が自分で、だ。
そこまではちょっと、勇気がなかった。
廣瀬の性格はきっと信用できる。それは分かってる。
だけど余計なことを言いふらして、自分のことを、それ以上に兼嗣を、軽蔑したり嫌悪する可能性が少しでもあるのが嫌だと思った。
でも廣瀬と他愛のない話をしながら食った飯は自分でも驚くほど美味しくて、唐揚げも卵焼きも豚汁も、久しぶりに味を感じて。
目の前がひらけて、忘れていた活力がじわじわと湧いてくるようだった。
今まで何を塞ぎこんでいたのか、馬鹿馬鹿しくなるくらいに。
これなら兼嗣と自然に接することができるかもしれない。
たぶんまた、前みたいに戻れるはず。
日ごろ家来みたいに扱ってはいたが、やつを大事な幼なじみだと思う気持ちは、一応それなりにある。
兼嗣の気持ちも、そばに俺しかいないから勘違いしてるだけで、刷り込み、または誰でもかかる麻疹みたいなもんだ。
今は狭苦しい寮生活で男ばかりだが、学校を卒業して世界が広がったら、放っておいても他に好きなやつくらいできるだろう。
だからとりあえず、明日、兼嗣に話しかけてみようと思う。今までと同じように。
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