51 / 123

処世術

 中心から手足の末端までぶわっと総毛立つ。  尋常じゃない汗が、背中や髪の内側までドッと吹き出す感覚がする。 ……心の準備も、何もなかった。  全身の筋肉が引きつり、もがき苦しむのに力が入らない。  意識のある状態で許容できる苦痛を越えている。  肉体が危機にさらされていると、身体の全細胞がものすごい勢いで異常事態を警告していた。 「みーちゃ……っ!」 「あぅ゙……っ、ゔッ……っ──ッ!」  ちゃんと、呼吸しなきゃ。刺激が、ダイレクトすぎる。  本来は麻酔とかいるやつなんじゃないか、これ。  シラフで感じていい痛みじゃなくねえか。  身体は必死で逃れようとするのに、足の指が虚しく、がむしゃらにシーツを引っ掻くだけ。  枕を掴んで上に逃げようと這いずれば、気づいた兼嗣が俺のニの腕を掴んで引きよせる。 「っゔ、んァ、あぁ゙あ……──ッッ!」   窮屈な肉壁を内側から食い破るように、ぐ、とさらに奥まで侵食される。  潰れたような悲鳴が押し出され、見開いたままの目から、なんの前兆もなく涙がボロボロこぼれた。 「は、あぅ゙……う、ッ落ち、つけ……っ、」 「んぁっ、みーちゃん……!」 「逃げ、ねえ……っからぁ……!」  本当は逃げたくて逃げたくて仕方がなかった。  今すぐこいつを突き飛ばして記憶から抹消して、数時間前の自分に戻りたいと思った。  だけどそれよりこの激痛が地獄だった。  とにかく早く終わらせたかった。 ──それしか、考えていなかった。

ともだちにシェアしよう!