52 / 123
埋まらない溝
「あぁ゙……ッ兼嗣……っ動く、な、たのむ……」
じとりと背中に脂汗が滲む。熱いのか寒いのか分からない。
呼吸もままならない中で、上体をよじって兼嗣に手を伸ばす。
こめかみに生ぬるい涙がつうっと流れた。
兼嗣は押し進んでいた腰を止めて、伸ばした手を優しく掴む。
ただの処世術でしかないそれに、宝物に触れる犬みたいに頬を擦り寄せて。
「みーちゃん、かわいい、全部すき……」
「……そうかよ」
「まだ半分くらいだよ……。確かにすごい窮屈だけど、やっぱり痛い?」
「あ、あぁ……、激痛しかない。俺には無理……っん、んぅッ」
都合の悪いことは聞きたくない子どもみたいだ。
俺の言葉を遮って、口付けられる。
唇の隙間からぬるりと舌が侵入し、柔らかな濡れた粘膜が触れ合う。
そこはまだうっすら血の味がして、鼻腔に充満する鉄の匂いと、自分の精液の雄くささに嫌悪感で呻くが、苦痛と疲弊で脱力しきった身体は、いうことを聞かない。
「ふっ、ん……ッんぅ、は……ぁ、」
口内は甘ったるい鉄の唾液に溢れ、頭の中までぐちゅぐちゅとかき混ぜられている気分になる。
髪を梳く兼嗣の長い指が、汗ばんだ頭皮をくすぐる。
大きな手のひらは耳まで塞がり、轟々と卑猥な音が頭の中で反響した。
ぬめる唇が卑猥に擦れ合う。
下からも、兼嗣の巨大な存在を感じる。
ともだちにシェアしよう!