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不穏な空気
腹は膨れて、解熱剤も飲んだせいかまた眠くなる俺に、廣瀬は『寝てていいよ』とこれまた人を甘やかしてどろどろに陥落させてくる。
熱があるときって、他人の優しさが身に染みる。
ていうか廣瀬の対応がいちいち丁寧で、労ってくれているのが分かるから。それが嬉しくて、そして心底感謝した。
ひとりだったら、もう寝ることしかできなかっただろうから。
「それにしても裕太おっせえな……。道草食い荒らしてんのかな」
「迷子にでもなってんじゃね」
「ふは、あいつならあり得る」
布団にくるまって微睡みながら、いつになく和やかに談笑していたら、何やら廊下のほうから、複数の足音と騒がしい声が近づいてくる。
「──いやいやまじで今はやめとこうって! 寝かせといてあげようよおっ!」
「?」
……この声、花岡?
そう怪訝に思ったのは俺だけではなかったようで、廣瀬と目が合う。と、ほぼ同時に部屋の扉が勢いよく開き、ふたりそろって目を向けた。
「みーちゃん……!」
「へっ、兼嗣?」
「倒れたって、聞いて……っ、」
花岡だと思ったそれは兼嗣で、瞠目する。
ずるりと落ちてきた額のタオルを手に、思わず上体を起こした。
急いで来たのか肩で呼吸する兼嗣の後ろで、薬局の袋を提げた花岡が居心地悪そうにオロオロしているのが見える。
ふたりの様子に大体見当がついた。
おおかた花岡がうっかり口を滑らせて、兼嗣の勢いを止めきれなかった、ってところか。
「おれっ、そこまで体調崩してたなんて知らなくてっ」
「……そりゃあ、言ってねえもん」
「なんで言ってくれないの?!」
「……その話、ここですんのか?」
できれば場所を考えてほしい。
さすがに昨夜のことを廣瀬と花岡の前でされるのは避けたい。
少し良くなった体調がまた悪化しそうだ。
「……それなら、場所変えよう」
「あぁ」
分かった、と膝に手をついて立ち上がろうとした俺の腕を、ふいに横から廣瀬が掴む。
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