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誰かと違って心地よい
眠くはないけど、ひんやりしたその感触も、落ち着いた声や室内の静かな空気も、心地いい。
「だって……、俺病気なんて普段しねえから、そういう場所まじ苦手……って、裕太? 花岡か?」
そっか、あとであいつにも詫び入れとかねえとな……と、考えて、ふと思い出した。
「え、そうだけど? もうそろそろ帰ってくんじゃねえかな」
「……」
気まずい。合わせる顔がなさすぎる。
花岡はどういう気持ちでお使い行ったんだ……。
いや、でもあいつは兼嗣の相手が俺だって知らないんだよな。
知らなくても、そのうち分かるのは時間の問題だと思うけれど。
考えるとまた頭がザクザク刺されるように痛くなってきて、こめかみを押さえる。
「あ、解熱薬だけでも飲むか? それなら俺も持っててさ」
「えっおれ、熱あんの……?」
「……今さらすぎない……?」
俺の突然の体調不良は、もっぱら兼嗣からの行為による全身の筋肉痛と、精神的ストレスかつ内臓への負荷がかかった故の発熱、らしかった。
原因が分かると少しホッとして、安静にしていれば治まると確証が持てたせいか気が楽になった。
休日だったのも幸いした。とにかく今日は寝まくってはやく治そう。
「先になんか食うか。今日なんも食ってねえだろ」
「おなかすいてない」
「うどんは冷凍、雑炊はパウチならあるけど」
「豚骨ラーメン、激辛」
「食欲あるじゃねえか。うどんな」
激辛の豚骨ラーメンは却下された。やっぱり母ちゃんっぽい。
廣瀬はおもむろに立ち上がると冷蔵庫を物色しはじめて、部屋の一角にある二口コンロの簡素なキッチンに立ち、慣れた手つきで鍋でうどんを茹ではじめる。
その横顔を眺めていたらいつの間にか眠っていたようで、つぎに起きたときにはテーブルは綺麗に片付けられ、いい匂いの湯気を燻らせる月見うどんが用意されていた。
学食とはまた違う家庭の味って感じで、疲弊した身体は養分を欲し、出汁の香りも相まってするすると食が進み、今度は戻すこともなく完食した。
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