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見慣れた部屋
────…………
ハッと目を覚ました。
視界の位置がいつもより低くて、キョロキョロと眼球だけで辺りを探る。
壁に貼られた洋楽ロックバンドのポスターと、応援している球団のスポーツタオル。
廣瀬の趣味の観葉植物のでかい鉢植えと、たまに花を咲かせる窓際の小さなサボテン。
今にもテーブルから落ちそうなプリントの類いと、椅子にかかったままの自分のジーンズ。
見慣れた自室だったことに安堵した。
どうやら俺のベッドの布団をそのまま床に持ってきたようだった。
頭に何か乗っているらしく、視野の上部にチラチラ入ってくる。
手で触ってみると、それは生ぬるくなったハンドタオルで。
「──おう、起きたか」
「ひろせ……?」
「ちょうどタオル取り替えようとしてたとこ。今裕太が色々いりそうなもの買いに行ってる」
隣に胡座をかいて座りこみ、廣瀬は風呂場から持ってきたであろう桶に水を張って、別のタオルを絞る。
表情はいつもと同じく穏やかで、何だか妙に安心した。
枕元に置かれていた自分のスマホを見るともう夕方で、ずっと看病させていたのかと申し訳なく感じる。
「……そんな、いいよ。寝てれば治る」
「医務室か迷ったんだけど……」
「絶っ対いやだ。病人じゃねえから、ほんとに」
「だよな、言うと思った。寝れば治るとかいつの時代だって。気合いにも限度あるからな」
起き上がろうとした俺の肩をそっと押さえ、布団に逆戻りさせられる。
優男め……。こいつの彼女は幸せだろうな。
今だってすげえ優しい声で、仕方ないやつだなあって顔で俺に笑いかけてるの、自分で気づいてんのかな。
……気づいてないんだろうな。
顔の造形もだけど、そういう内面からの余裕や思いやりがイケメンなんだよな。
羨ましさを飛びこえて、いっそ崇めたくなる。
大人しく布団に収まると、廣瀬は満足げに微笑んで、額にしっかりと絞った冷たいタオルを置いてきた。もはや兄ちゃんより母ちゃんって感じ。
いやな頭痛がすうっと引いていく気がして、目を瞑る。
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