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健闘を祈る
パタリとドアが閉じられ、ハッとした俺は目をショボショボさせて、恐るおそる美夜飛を見る。
さっき直したのか衣服に乱れはないが、机の上で胡座をかき、ゴシゴシと袖で乱暴に顔を拭っていたから、もしかしたら泣いていたのかもしれない。
「……助かった。本当に、まじで助かった」
「野暮なことして正解だった?」
「あぁ、大正解。話をしようと思ったのに、それどころじゃなかったわ……」
はは、と俯きがちに乾いた笑いを漏らす美夜飛は、あの高熱を出したときと同じような空気をまとっていた。
目許が真っ赤で、つやつやと膜が張るくらい強気なつり目が潤んでいて、本当に小さく、近づかないと分からない程に震えている。
普段そういう弱々しいイメージが全くないからこそ、守りたくなる、というか。
庇護欲……まではいかないが、自分だけは味方でいてやりたい気持ちには、なるかも。
兼嗣はたぶん、美夜飛のこんな姿を、今まで何度となく見てきたのかな、なんて思った。
「……大丈夫か?」
「ああ、平気……」
俺からしてみればどこからどう見ても普通に普通の男で、女性的な可愛さや柔らかさからはほど遠い。
けど、そんなのなくても、こいつは案外、自分の懐にいれた相手には弱いっていうか、甘っちょろくて隙だらけだろうし。
兼嗣は兼嗣なりに、色々と思うことがあって苦労してきたのかもしれない。
「……悪い、醜態さらして。世話かけるのも、もう今回限りだから」
そう言って、美夜飛は泣き腫らした顔を気合いを入れるように自分でパシッと両手で叩いて、机から身軽に飛び降りた。
「……何が傷つける、だ。俺を試してんのは、あいつのほうだろ」
「へ?」
独り言のように静かに発した声は消え入りそうで、心配になって顔を伏せた美夜飛を見やる。
「──……あんのクソ駄犬が。躾け直してやらぁ」
しかし、次の瞬間にはギロリと前を向いた美夜飛はすでに、こめかみを筋立たせ眉間に皺をよせて、何が楽しいのかニヤリと人相の悪すぎる顔をしている。
今さっきまで泣いていたのが信じられないほどの切り替えの早さだ。
むしろ堂々たる頼もしささえ感じる。
今から金属バット装備してリンチでも決行するのかと思うくらいに。
そこにもう俺のお節介は必要なさそうで。
颯爽と駆けていく美夜飛の小さくて大きな背中を、わりと晴れやかな気持ちで見送った。
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