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謝ってばっかだな
ポケットに入れっぱなしだった鍵で部屋のドアを開けるや否や、気づいた兼嗣の怒号が飛ぶ。
「出ていけっつってんだろうが!」
「でっ、出て行かない! ここは俺の部屋でもあるんだぞ!」
初めて聞いた兼嗣の怒鳴り声に肝っ玉がひゅんってなる。
早々に尻尾まいて逃げ出したくなったが、何とか踏ん張った。
兼嗣はベッド下のスペースにある自分の机にいた。
その周囲の床にはキーボードや文房具、ノート類が散乱している。
幸いにも俺からはやつの後ろ姿しか見えないが、それでも、机に乗った美夜飛のジャージに思いっきり右手を突っ込んでいるのが見えてしまって、とっさに自分の顔を手で覆った。
「お前ほんと冷静になれ! それが好きな相手にすることかよ!」
「花岡……っ、やめっ、見るな……っ頼むからぁ!」
「おっ、俺は見てないから安心して!!!」
美夜飛の嘆願する悲痛な声が聞こえて、宥めるように返す。
ちょっと見ちゃったけど、今はまじで物理的に何も見えない。
ぎゅうっと目を瞑りながら、顔の前でブンブン両手を振ると、勢いの止まった兼嗣が、自分を落ち着かせるように深く息を吐く。
「……ごめん」
「は、はぁ……っ、」
「……分かって、くれた……?」
「……俺、また傷つけるところだった。ごめんね裕太。みーちゃんも、本当にごめん」
「……っ、」
しばらくガサゴソと衣擦れの音がしたあと、目を瞑った俺の横を通りすぎる風の流れを感じて。
振り返って見えた背中に視線をおくると、兼嗣は部屋から出て洗濯室のある方向へ歩いていった。
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