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がんばれ俺!
ちっ、違うだろ、それ……。
その台詞、その表情、俺じゃなくて、全部美夜飛に見えばいいんじゃん……。
「──ふざけんなっ、離せ……! おいっ、やめ、いやだ……っ、頭おかしいだろお前……!」
美夜飛が暴れているのか、室内から物がバサバサ落ちる音と、ガタガタと家具が動くような音もする。
「てめぇ……っ、この変態クソオタク! またかよっ、結局こうなんのかよ! 力尽くでっ、身体ばっか持っていって、楽しいかよ……っ!」
廊下には籠もったような美夜飛の怒鳴り声が聞こえて、俺はどうするべきか迷った。
もう放っといたほうがいいのか?
人の恋路にここまで首を突っ込むのはアリなのか?
普通はナシだろ。無粋だ。野暮すぎる。
でもこの一週間、たまに素直に見せた美夜飛の寂しげな顔を思い出すと、この状況はあまりに不憫で、可哀想で。無視、できなかった。
「……ップライドへし折って、ズタズタに切り刻んで楽しいかって聞いてんだよ……っ! 答えろや、馬鹿野郎っ!」
……どうしよう、美夜飛の切羽詰まった怒声が悲鳴のように聞こえて、俺まで焦る。でも、俺ひとりじゃ兼嗣を止められない。
……あ、人を呼んだらいいのか?
いや、むやみに周知させるのもよくない……。
……あ、翔! 廣瀬呼ぶか?!
だめだ、絶対前より悲惨になる。
あのふたりが喧嘩になったらどうする。ボコボコに殴り合う友人同士とか見たくねー!
ふたりとも俺より上背あるし、それ止められる自信もねー!
それにもし部屋に入ってすでにおっ始めてたら最悪だ。さすがに夢に見そうでキッツい。
──……ええいっ、なら善は急げだ、がんばれ俺!
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