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仲良し
「自然乾燥は、髪が痛むんですよ」
「へいへい」
適当な返事をする。
分かってはいるんだけど、暑いし面倒くさいから、ついそのままにしてしまう。
右隣にある背の高いスチールラックの籠から、廣瀬は座ったまま腕を伸ばして、新しいバスタオルをあっさり手にとるのを見上げた。
リーチ、長いな。俺はここからだと絶対届かねえわ。
なんてぼんやり眺めていたら、広げたバスタオルで、突如視界が遮られるほど頭をまるっと包まれる。
「かゆいところはありますかー?」
「ありません。美容院かよ」
すっぽりとバスタオルをかぶせて、わしわしと乱雑に髪を拭かれる。
胡座をかいた自分の足許に視線を落とす。
肌触りのいい、柔らかなタオルに包まれた真っ白な視界。
かい撫でる絶妙な加減の手つきや、背後の間延びした落ち着いた声。
全てが心地よくって、あたたかい。
「ははっ、なあ美夜飛、あれってさあ、シャンプーする時かゆいところありますって言ったら、そこ掻いてくれんのかな?」
「ふは、あれって言ってもいいやつなのか? 右の側頭部が少しかゆいですってか? ぶはっ!」
「ふ、それ、美容師さん困るやつだわ」
「実際いるかもだけど、想像したらちょっと面白ぇ」
俺はからからと晴れやかに、廣瀬は声を押し殺して身体を震わせ、笑い声を立てる。
ひとしきりそうやって冗談の掛け合いをして、腹筋と頬の筋肉がじわじわ痛くなってきたころ、廣瀬がはあっと深くひと息ついて、手を動かせたままのんびりと呟いた。
「俺、たぶんこういうの好きなんだよね。自分の手で世話やいたり、育てたりって」
「はは、うん、知ってる」
粗方乾かせたのか、バスタオルを頭から外して肩にかけ、耳の近くや後頭部の内側まで、指先でしっかりタオルドライされる。
他人にこんなふうにされる機会があまりないのと、手慣れた様子に安心する。
きっと弟妹が多いから手際がいいのかな、なんて考えながら身を任せた。
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