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いつもと違う香り
自然と肩の力は抜け、先程までのいやな気分もとっくにどこかへ消え失せて、居心地のよさにされるがまま。
「え、まじで? なんで知ってんの」
「……この部屋、植物多いし。お前、弟妹も多いし、たしか犬も飼ってんだろ」
「なるほど。あと、うちのワンコは世界一かわいいよ」
「飼い主って全員それ言うよな」
「……美夜飛は?」
「うん?」
つい、目を瞑って、うとうとしていた。
柔軟剤の匂いがする分厚いバスタオルが眠気を誘ってくる。
「遠山に対して」
「ぶはっ、確かに犬だな、あいつ。スタンダードプードル」
「大型なとこもそっくりだよな。大きなぬいぐるみみたいな見た目だけど、元は狩猟犬ってところとか」
「へー、でかいプードルってことしか知らんかった」
「あの小さいプードルの原型だよ。忠誠心が強くて、大型犬で頭もいいから、小さいうちに躾はしっかりしないとだめなんだけどな」
「……ふぅん……。それさ、俺にも言ってる?」
「ははっ、さあ、どうだろ?」
あまりに兼嗣に当てはまるもんだから、どちらともとれるような物言いに少しギクリとした。
けれど廣瀬の声は変わらずゆったりしていて、嫌味っぽくはない。
タオルからドライヤーに切り替えられ、会話はそこでしばらく途切れた。
数分後くらいか、やつの手が止まり、耳障りな轟音がぱた、と止む。
シンと静かになった室内で、廣瀬が後ろでゴソゴソと身動ぐ。
何かと思って振り向けば、その手には英字のラベルがついたボトルが握られていて。
「ヘアオイル、一応つけておこうと思って」
「……は」
そんなものまであるのか。
ボトルを開けると、まるで本当に美容院にいるようないい香りがふわりと漂う。
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