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特別じゃない

 とろみのある薄い黄色をしたそれを手のひらに垂らし、擦り合わせて、揉みこむように髪につけられる。  蜂蜜みたいに甘ったるいのに、癖がない。  いやに鼻腔に残らなくて、清潔感のある、上品な高級香水みたいな香りだと思った。 「お前、染めまくってるわりに、そんな傷んではないんだな」 「髪? 自然乾燥だけどな」 「せめてタオルドライくらいはしような。床びちゃびちゃになるから」 「あ……。はーい、気をつけます」  出た。母ちゃん気質。  こいつ、やっぱり世話焼きな母ちゃんっぽい。  だって同室の男相手にここまでするか、普通。  なんというか、俺を特別扱いしてるってよりは、もともと人の世話が好きで、近くにいたのがたまたま俺だった、ってだけなんだろうけれど。  小言を言いつつヘアオイルまでつけてくれるなんて、甲斐性の化身か。至れり尽くせりだ。  髪を梳いていく、細く長い指が気持ちいい。  兼嗣のは、もっと節が目立ってゴツゴツしていて、まさしく男って感じだった。  でもまあ、手先が器用そうなところは共通点かも。  なんて、どうでもいいことを考えつつ、ふんわりと香る甘い匂いにリラックスしていると、 「……そういえば、もう消えたのか、身体の」 「あー……、あれな」  痣みたいな大量のキスマークと、歯型。  この一週間、風呂場で何度も揶揄われた、鬱血痕だらけの身体。 「まあまあ消えたよ、ほら」  着ていた白いTシャツの首元を指で引っかけて、なんの変哲もないまっさらな肩を見せる。  あのときは、熱が下がってから風呂に入るまで、ずっと、もし周りに聞かれたらどんな言い訳をすればいいか、とか、気味悪がられたらどうしようとか。  考えるだけで鬱々としたし、正直恐ろしくもあった。

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