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いみがない

「てめぇ……っ、この変態クソオタク! またかよっ、結局こうなんのかよ!」  首の太い血管が、血液の流れを感じるほどドクドクと脈打つ。  耳許で自分の鼓動が聞こえるくらいに跳ねる頸動脈の上を、兼嗣の舌がねっとりとたどっていく。  ずくずくと胸の奥がさらに苦しくなって、その痛みを誤魔化すように頭を振ってやつを拒絶した。 「力尽くでっ、身体ばっか持っていって、楽しいかよ……っ!」  揺れる視界の中、色んな小物が散乱した床に、あの、事の発端である日記が紛れているのがふと目に入る。  見慣れた大学ノートが、今は恨めしくて仕方なかった。  お前がいなけれゃあ、こんなことになってなかったのに……っ!  ぶつけたい悲しみが、怒りが、虚しさが、情けなさが、出口を求めて体内で暴れまわる。   兼嗣は片手で俺の両手の自由を難なく奪い、脚で蹴ろうとすると両膝を開いて、そこに身体を滑りこませて。 「……ップライドへし折って、ズタズタに切り刻んで楽しいかって聞いてんだよ……っ! 答えろや、馬鹿野郎っ!」  追い詰められてどうすることもできずに、唯一動く口で怒声を浴びせた。  壁と背中の間に挟まれたモニターが、背骨や肩甲骨に容赦なくゴツゴツ当たって痛い。  がっちりと押さえられた手首が、末端まで血が巡らずに、手のひらが冷たく、ピリピリと痺れる。  痛くて、痛くて、泣きたくなる。  なあ兼嗣、お前の愛は、ぜんぶ、痛いよ。 「……楽しいわけ、ないだろ……っ、」 「……っ!」 「好きでこんなこと、しない……っ」  前髪の隙間から見えた目は、まっすぐに俺を見る。  目を眉も下げた、くしゃりと歪んだ顔は苦しそうで、泣きたいのを必死で我慢してるような表情だった。  俺には、痛む傷を嘆く隙さえ、与えてくれないのか。 「冗談じゃねえよ……っ、」  そんな顔をするくらいなら、楽しくもねえなら、ハナからこんな真似すんじゃねえよ。  アホか、この凡クラ変態野郎が。  本当に、本当に無意味だ。

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