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うごけない

「……っは、ぁ……っ、い゙……っ」  浅いところで何度か抜き差しされ、ぐるりと指をまわして、括約筋の周辺を内側から揉むようにひらいていく。  あのときみたいにローションもないのに、容赦なく慣らそうとする動きに恐怖を覚えた。  やりたくない。  したくない。  まだ許してないのに、勝手にこじ開けて、勝手にナカに入ってくんな。  殺されるよりも、残酷だ。  だって、キスさえ、ない。  愛の言葉も聞こえない。  人として扱われている気がしない。  欲望の捌け口にされ、生きたままいたぶられて、いじくりまわされて嬲られるくらいなら、舌噛み切って死んだほうがマシだ。 「っう、ぁ……ッや、こわぃ、たすけて……っ」 「っ、」  ほとんど無意識に、悪い夢にうなされたときの譫言みたいに、呟いていた。  本音がそのまま声に出てしまった。  それくらいにどうしようもなかった。  怯えきって震えるしかない俺を宥めるためか、それとも罪悪感からか。  兼嗣は顔を上げて、今さら機嫌をとるようにすり寄ってくる。  同時に頭上の拘束がふっと緩み、両手が自由になった。  しかしずっと上げっぱなしだった肩はだる重く軋み、手のひらを握ると手首まで鈍い痛みが響く。  恐るおそるやつの顔が近づき、頬に手を沿えられて、互いの鼻先がするりと触れた。 ……今さら、もう。  これ以上、傷つきたくない。  こいつの、獲物を見るような目も見たくない。  身体は自由になっても、心が折れてしまった。  小さく嗚咽を漏らしたまま微動だにしない俺に、やつはわずかに顔を傾ける。  熱い吐息が唇に当たり、くるであろう柔らかな感触に、俺は薄く口を開けたまま、ゆっくりと濡れた瞼をおろす。 ──その瞬間、部屋の扉が開く音と、兼嗣の背中越しに、血相を変えた花岡の姿が目に入った。

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