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頭の中

 見苦しいところをがっつり見られて花岡には申し訳ないが、心底助かった。  まさか助けを願って本当に誰かが部屋に入ってくるとは思わなかった。  だけどそのおかげで俺は冷静さを取り戻し、いつもの調子を思い出した。  諦めに似た怯えも、潰れそうな痛みも。  完全になくなったわけじゃないけれど、一周まわって開き直った感はある。  自分の同室にまで迷惑かけて、何が無害なプードルだ。  話も聞かずにすぐ噛みついてくる、とんだ駄犬野郎が。  今までが何もなかったんだ。  そのままずっと隠しておくこともできただろうに、お前が一線を超えてきたのは、心のどこかで許してもらえるという甘えや確信があったからじゃないのか。  関係を発展させたいなら普通はそれなりに段階を踏むのが相手への礼儀だろうがよ。  それを、何段もすっ飛ばして。  わけの分からんままトラウマだけを植えつけて。  そのまま、トラウマで放っておくつもりか。  お前自身にどうにか関係を修復しようというひたむきな好意はないのか。  俺を掌握して、あんなに何度も貫いたくせに。  重なった肌の感触だって、体内を蹂躙した凶悪な熱だって、触れた柔らかな唇も、切羽詰まった吐息も、終始優しかった大きな手のひらと、初めて聞いた欲情した声も。  まだ、全部、記憶に焼きついて離れない。  忘れたくてもこっちはもう、なかったことになんかできないんだ。  否が応でも、お互いの認識のズレをすり合わせる時がきてしまった。  きっと今しかない。ここでハッキリさせておかなくては、取り返しのつかないところまで終わってしまうと思った。  終わるときは終わるんだ。いとも簡単に。  本当に何もなかったみたいに、全部夢だったみたいに、残るのは輪郭のぼんやりとした記憶だけ。  それに縋る未来はいやだ。  それもこれも、俺が日記を見なければこんなことになっていなかった。 ──あの日記が、心の底から憎たらしい。

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