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恋のヤンキー闇日記

「今、この機会を逃したら、もうみーちゃんのこと離せなくなると思うよ。俺はそれに一生かける自信あるけど、みーちゃんはそうじゃないなら、今のうちに……」 「逆だよ、逆」 「……え?」 「俺がさ、お前を繋いでおきたいの」 「……っへ? あ……、ま、待って……っ」  兼嗣が一気に沸騰して、あからさまに狼狽えながら片手で顔を隠す。  手のひらで覆いきれない剥き出しの耳はみるみるうちに真っ赤になって、思わず笑った。  そういった反応をこれからも見られるんならさ、俺の下した決断は、やっぱり間違いではなかったって、思えるよ。  「ふは、顔、赤すぎ」 「……ほんと、すごいよ、みーちゃん。全面降伏って感じ……好きすぎてどうにかなりそう……」 「急に語彙力失うなよ」 「……みーちゃんになら、首輪つけて鎖に繋がれても、俺は嬉しいよ」 「さすがにそこまで変態じゃねえから、俺」  せいぜい俺のつくった柵の中で放し飼いされてろ。  自分はもっと、好きとか可愛いとか恥ずかしい台詞ばかり吐くくせに、俺が似たようなことをするのは慣れていないのか。 「なあ、兼嗣……」 「……?」  力なくだらりと下げていた腕をあげて、自分より広い背中にまわして、抱きしめて、目を閉じて、感じる。  兼嗣の存在を、広い肩を、大きな身体も、布越しでもじわじわ伝わる熱い体温を。  どちらのものか分からない心地よい鼓動を、飾り気のない匂いも、全身で味わうように。 ……もういい。もう、いいんだ。  ずっとそこにいてくれるなら、これで。  意味ねえんだよ、お前がいないと。  お前みたいな変なやつに、この先出会えるかなんて分からない。  手放すのが惜しいんだ。手元に置いておきたいと、思ってしまったから。 「……この先どうなろうが、幼なじみなのは変わりねえなと思ってさ。たぶん、俺……」  情とか依存とか絆とか、好きとか嫌いとか、どれかひとつで済むような感情じゃないんだ。  その全てが十数年分、地層みたいに重なって、そして歪に練り合わさってるから、一言では伝えきれない。  そんなレベルをとっくに越えてて、けれども全部ひっくるめて。  行き着く先が天国だろうが地獄だろうが、お前とだったら、いいよって、思えた。  たどり着いた答えは大きすぎて、俺も大概重いよなと思ったら、ふっと自嘲の混ざった笑い声が出た。  兼嗣の広い背中を宥めるように撫で、ふわふわと頬に当たるやつの髪に、猫みたいに顔を寄せる。  その感情に名前をつけるなら、それはもうきっと。 「……お前との関係なんて、何でもいいんだ」  恋なんて概念では、足りない。 fin. 200620 200901(改稿)

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