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よくできました

「……っは、」  ひく、と腰が震えて、同時に熱っぽい嘆息が漏れた。  名残惜しむようにゆっくりと唇が離され、目を伏せる。  やつの痛いくらいの視線を感じ、恥ずかしくて顔を上げられない。  口の端から垂れた唾液をぐいっと親指で拭った兼嗣は、俺にしなだれかかるようにして、ぎゅうっと優しく身体を抱きしめる。  首筋に顔を埋め、耳許で、こもった熱を逃がすように大きく息が吐かれた。 「……おれ、“待て”、ちゃんとできた……?」 「……あぁ、まあ、及第点だな」 「……よかった……。俺ね、みーちゃん見てると、たまらない気持ちになるよ。大事にしたいのに酷くしたいって思うし、口の中に入れて守りたいのに、甘噛みしながらずっと舐めて転がして、ふやかしてたい」 「……はは、やべぇな、その感性」 「ごめん」 「おもしれぇって意味だ。否定じゃない」 「……うん。あのね、俺も知ってるよ。みーちゃんが優しいの、俺、ずっと前から知ってるんだよ。見てたから」 「……ん」 「だからね、みーちゃんの口が悪いのも、足癖がすごく悪いのも、そういう表面的なことはね、もう耐性ついちゃった」  お前も大概、性悪だよ。  やっぱり一番危険なのはお前だ。  でも何かあったとき、そばにいて矛や盾になってくれるのも、きっとお前くらいしかいない。  だけどそれは、お前も同じだろう。 「……ね、こういうことさせてくれるのって、俺と付き合ってもいいってこと?」 「……お前、全部聞くからモテねえんだぞ」 「うん、いいよ。他はどうでもいい。俺にはみーちゃんだけだもん。最初も最期も、君だけ」  救いようのねえ馬鹿だ。  そういうところが、たぶん俺は弱い。 「なあ、なんで……お前は、」 「……?」 「そんな、俺のどこに……っていうか、もし俺がさ、今のままがいいって言ったら、どうするつもりだったんだよ」  俺の台詞が意外だったのか、一瞬ポカンと首を傾げるが、すぐにやつは至極当然のように、柔らかな笑みで言った。 「……俺は、それでいいよ。言ったでしょ。君のそばにいられるだけでいいって。そこは昔から変わんないし、これからも変わらないよ。また前と同じに戻るだけ。戻れるだけでも、俺にとっては奇跡だよ」 「……っ、」  捨て身で無謀なことをしたこいつに、そんなズルい真似、できるわけねえだろ。  それに、そういう中途半端なのは性に合わない。 「……俺だって、言ったろ。お前の我慢で成り立ってる関係なんて嫌だって」 「……じゃあ、みーちゃんは?」 「は?」  きょとん、と子どもの純粋な疑問みたいに、問われる。  みーちゃんは、我慢してないの?って。  そんな野暮なこと、黙っていれば、それこそ知らないふりをしていたほうが、お前にとっては都合がいいだろうに。

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