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“待て”
愛情表現する犬みたいにするりと高い鼻が触れて、兼嗣の唇が俺の頬に押し当てられ、それは口の端まで移動して。
薄く開いたそこから艶めかしい赤い舌が覗き、うっすら縦に入った皺をなぞるように、ちろりと上唇を舐めてくる。
「おねがい……、ちょっとだけ舌、だして……?」
「……っ、」
焦点が定まらないほど近くにいる。
おずおずと薄く口を開けて舌を見せると、互いの赤い舌先がちろちろ当たって、熱く濡れた軟体なそれが絡みあう。
「んっ、んぁ……ッ、ぅ」
歯の隙間からぬるりと入ってくるやつの薄い大きな舌に、身体の芯がビリビリ痺れて、熱いのが流れこんでくる感覚がした。
舌を銜えて啜られ、甘い唾液を吸いあげられ、背筋がぞくぞくと熱く戦慄く。
「はっ、ぁ……っあぅ、ん」
もっとと強請るように、兼嗣の口付けはだんだん激しく、顔の角度を変えて、何度も何度も食らいつくようになって。
頭に響く卑猥な水音と、その感触に没頭する。
触れたところから、とけそう、全部。
頭ん中がどろどろになる。
今がいつで、ここがどこだとか、どうでもよくなるくらいに。
「っふ、ぁ……っ、」
「みーちゃ……」
「っはぁ、ん……、ま、待て……舌、も、だめ、だ……ッ」
口付けられたまま喋ると、やつの舌で口の中がモゴモゴして、くちゅくちゅいやらしい音が、恥ずかしい。
「んむっ、ぁ……かね、つぐ……っ」
「……んっ、もっと、味わいたい……」
ちゅっちゅっと音を立てて軽く唇を啄みながら、兼嗣が俺の首筋に指先を滑らせて、言う。
それ、無意識にやってんのかな。
喉仏の下、鎖骨の中心の窪んだ皮膚の薄いところを指で擽られたら、声が出そうなくらいにぞくんと震える。
「……っは、ぅ……、だめだって……変な気分になるだろ」
背けた横顔に、兼嗣の唇が追ってくる。
身体の力が抜け、やつの腕に縋っていた手がずるずると落ちた。
粘膜が触れあうと、どろりとした甘美な疼きが、身体のナカにまで響く。
もっと欲しいって、思ってしまう。
あのときだってそうだった。
もう嫌だ、無理だって思ってるのは本当なのに、身体はずっと快楽だけを求めた。
自分に裏切られたみたいな、心身がバラバラに引き裂かれたような気持ちだった。
だから今は、取り返しのつかないところまでその気にさせられたら、俺のほうが困る。
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