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覚悟
俺を阻むように目の前に兼嗣の身体、横には腕がある。
頭上には乾燥機が据え置かれていて、自分のいる空間が狭く、閉じこめられたような気分になった。
さっきの、部屋で兼嗣の机に乗せられたときと同じだ。
逃げられる場所は、もうどこにもない。
助けてくれる人間も、今はいない。
「……っ、待てじゃ、ない」
性的な対象として見られることへの抵抗感と、求められることへの羞恥心。と、わずかながらも、確実にくすぶる悦び。
色んな感情が湧きあがって、もみくちゃになって、泣きそうだ。
もう処女でもないのにこんな初な反応になる自分も、恥ずかしくて消えてしまいたい。
逃げ腰になり遠慮がちに顎を引く俺へ、兼嗣は腰をかがめて、下から窺うように顔を傾け、ゆっくりと唇を合わせた。
「……ッ、」
恐るおそる目を瞑ると、優しく、壊れ物を扱うみたいに唇同士がこすれる。
その口付けは羽毛のように柔らかく、傷つきようがないのに、見えない縄で拘束されたみたいに硬直して、緊張で腕すら動かせない。
唇の表面が触れあって、何度も角度を変えて、薄いそこを啄まれる。
以前よりも感触がクリアに、鮮烈に感じた。
兼嗣とキスしてるって事実が、ひしひしと現実味を帯びる。
「……みーちゃん……」
しっとりと湿った吐息、鼓膜を震わせる低音の声。
余裕はないが精いっぱい我慢してるって表情に、恐怖よりも、煽られた。
健気なそれが、純粋に嬉しいと思った。
杭を打たれた両手をふりほどき、内心では意を決して、兼嗣の首に腕をのばし、大きな身体を引き寄せる。
「……はは、改めてすると恥ずいな」
「……っ」
額をくっつけて、照れくさくて笑う。
兼嗣の顔も赤かった。前もそんなだっけ。思えばそうだったな、確か。
でもそのときより、よく見える。
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