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第3話
部屋を出てエレベーターを降り玄関ホールまで向かう。
「あ、そうだコレ。渡してたスペアと一緒に寮監に返しといて」
カードキーを指に挟み、両手が塞がった静の胸ポケットに滑り込ませる。
腹減ったなぁ〜ふんふんと鼻歌混じりに前を歩いて行く。
先程までの建物は特別棟でSクラスのメンバーのみが利用できるS寮。
これから向かうのは一般クラスの寮を3棟挟んだ向かい側にある建物でFクラスのみが集められたF寮になる。
「いい天気だなぁ」
と思いながらのんびりと歩いていると
「大雅っっ!!」
自分を呼び捨てにする叫び声が聞こえた。
めんどくさいのが来たなぁ…と頭の中で溜息をつき
「仁科君、こんな所でどうしたの?」
頭の中とは裏腹にニコリと笑顔で答えた。
「大雅っ!お前っ!なんで何にも言わないで行っちゃうんだよ!っていうかオレの事は明人って呼べよっ!」
大声を出しながら向かってきたモサモサ頭に黒縁メガネをかけた小柄な1年生こそが、件の転入生 仁科 明人だった。
チッと小さく舌打ちをしたのは後ろを歩いていた静で大雅は振り返ると、メッと顔を顰めた。
「仁科君、僕はもう君達とは何にも関係なくなる訳だから…「なんで勝手に寮まで出て行く必要があるんだよっ!!」
「あっちの寮はSクラスの…「オレは何にも聞いてないっっ!!」
大雅は困ったなぁという顔を作って
「会長職をリコールされたんだよ、それ相応の処罰はうけなくちゃ…「でも、オレは大雅の友達だろっっ!?もっと相談してくれてもいいじゃんかっっ!!」
明人は大声を出しながら近づき、ブゥッと頬を膨らませるとギュッとブレザーの裾を握り込んだ。
無駄に大声出さなくても聞こえるし…何よりも皺になるから手を離して欲しいなぁと自分の目線よりも随分と低い所にある頭の天辺を無関心に眺め、友達ねぇ…と心の中で苦笑いを浮かべた。
「ホールでの話は終わったの?副会長達は…
「明人!探しましたよ!こんな所まで一人で来て!」
チラリと目を向けるとステージ上にいたはずの生徒会役員達が息を切らせながらやってきた。
小さく溜息を吐きまためんどくさくなってきたなぁと、自分のブレザーを掴む手を離そうと上から掴むと
「会…大雅様、明人とこんな所で手を握り合って何を?」
苦虫を噛み潰したような顔で副会長の
遠野木 克哉が呟く。
「ん?手?こんな所でって君達が勝手に集まってきてるだけでしょ?」
大雅は克哉に目線を向けて飄々と返事をした。
3年生の遠野木 克哉は中等部の頃から生徒会で一緒にやってきたメンバーだった。
複雑な家庭環境からか、常に周囲に気を配り嫌な事があっても笑顔を絶やす事が無い。
あまり自分を主張する事はなかったが、会長の補佐を一手に引き受ける事が出来る有能な人物だった。
そんな克哉は転入生との初対面の時に、
『そんな苦しそうな顔で笑うなよ!心から笑ってない笑顔なんて笑顔じゃない!笑いたくなかったら無理に笑わなくていいんだ!でもオレと居たらもっと心から笑わせてやるよっ!』
白い歯をキランと光らせながらビシッと親指を立てていたそうだ。
克哉はこんな一瞬で自分の事をわかってくれるなんて…と感動し、
『本当に私と一緒に居てくれますか?』と未だかつてないくらいとびきりの笑顔で転入生の手を握り頬にキスをした。
『当たり前だぜっ!これから沢山笑おうなっ!克哉っ!』
……その場面に大雅は参加していなかったが、風紀委員長である静は隣でリアルタイムで見ており呆れたようにこの事を話してくれたのだった。
「会…大雅君、そんな言い方しなくてもいいんじゃ〜??」
克哉の隣で会計で2年生の三ツ矢 忍が口を尖らせて話しかけてくる。
遊びでも何でも来るもの拒まず、去るもの追わずの優男だった忍も初対面の転入生に
『そんなつまらなさそうな顔してまで皆と居るくらいならたった一人の大切なやつ見つけて一緒に居た方が良くないか?』
と言われ
『忍が嫌じゃなかったら、オレと遊ぼうゼッ』
これまた白い歯をキランと光らせてビシッと親指を立てた。
『…ふ〜ん。面白い奴だな〜』となんだか胸がキュンとした忍もまた転入生にのめり込んでいった。
ブレザーの裾から手を離す素振りもない転入生から手を離し、どうしたもんかと思考する大雅の代わりに後ろから静が声をかけた。
「お前らこそ総会はまだ終わってもないのに雁首揃えてこんな所で何やってる。会長をリコールしたお前ら生徒会役員には今後についての説明責任があるはずだが?」
スッと目を細めて見渡す。
「あっ明人が急に飛び出して、会…天城様を追いかけていこうとするからっ!」
顔を真っ赤にしてキャンキャン吠えてくるのは書記の1年生 篠原 郁斗。
遅くにできた末っ子長男で家族、親戚一同から溺愛され外見も可愛らしく育ったせいで甘やかされる事が当たり前になっていたが心のどこかでは頼られたい、甘えられてみたい…という願望を持っていた。
そんな郁斗に対し転入生の明人は顔合わせの時に
『郁斗っていうのか〜中々男らしい名前だなっ!同い年だし、オレまだわかんない事も多いから色々頼りにしてるゼッ!』
これまた白い歯をキランと光らせて、ビシッと親指を……
『…っっ!もうっ!ボクがちゃんと教えてあげるからねっ!』
また一人転入生にのめり込んでいったのだった。
そんな郁斗の隣で2年生 庶務の嵯峨根 賢治だけは対象的に顔を青くしてただ俯くだけだった。
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