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第15話

  「お邪魔します」 「どーぞー。特にナンも無いけど、ソコ座ってて」 ソファを勧められてとりあえず座る。  あの後お互いに笑いが落ち着いて、万里がとりあえずコーヒーでも飲む?って、部屋に誘ってくれた。 「カッコつけてる訳じゃないけどさー、コーヒーは豆から挽く方がうまいと思うんだよねー」  お湯を電気ポットで沸かしている間にコーヒーミルを出し、豆をセットする。 ガリガリとテンポよくハンドルを回すとコーヒーの芳醇な香りが漂ってきた。 「タイガクラスだと、こんなんじゃおいしくないカモだけど…」 お湯をドリップポットに移し替えて、ドリッパーにフィルターをセットしサーバーに乗せて、挽いた豆をフィルターに入れて準備完了。 ドリップポットから少しずつお湯を落としていくとコーヒーの香りが部屋中に広かった。 少し時間を置いてカップにコーヒーが注がれた。 「ハイ、どーぞ」 キレイな動作でカチャリとカップとお皿がテーブルに置かれ、目の前のソファに万里が座る。 「ありがとう。いただきます」 カップとお皿を手に持ち、一口コーヒーを飲んだ。 「ん。おいしい」 「そ?お口に合ってナニヨリです」 フフっと笑って万里もコーヒーに口をつける。  実は大雅は他人が作った物を口に入れる事が出来ない。 小さい頃にトラウマとなる事件が起こり、それからはどうしても口に入れられなかった。 市販の物や、プロが作った物、自分、両親と静と律、あとお手伝いさんの文子婆ちゃんの作った物だけは食べれたし、飲めた。 でもそれ以外はどうしても無理だった。 どう頑張っても無理だった。 生徒会室で出される差し入れの手作りお菓子や飲み物は一度も口を付けた事がない。  食事はS寮では食堂にプロのシェフが居て腕を奮ってくれていたので安心して食べる事が出来ていた。  そう思うと、万里の入れてくれたコーヒーを大雅は何の躊躇いもなく飲む事ができた。 気持ちの問題かな、と口元が緩む。 そういえば…と万里に話しかけようと目線を上げると、万里がジッと自分を見つめていた。 「万里?」 どうしたのかな?と声をかける 「タイガとさー昔どっかで会ったことあるよーな気がすんだけど…」 「っっ!!」 驚いた。 「ウーン。……子供の頃…とか??」 顎に手をかけて万里が唸っている。 大雅が、それってと口を開きかけた時にカチャッと鍵が開く音がして扉が開いた。 「万里ー今日はごめんなー。」 と話しかけながら靴を脱ぐ長身で茶髪の男が目に入った。 部屋に入ってきて、大雅を見てピタっと止まる。 「…あらまぁ、噂の御仁がこんな所で…」 と驚いたように呟いた。

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