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第19話
万里を追いかけて、ホールを後にするとエレベーターの前で万里が待っていた。
「ありがと」
「ン?ナニが?」
「収集つかなくなっちゃいそうだったから」
「あー、さっきのお返し」
ニヤリと片方の口だけ上げて笑う。
「お返し?」
「ホラ、アイツに絡まれてウザかった時にさー、助けてくれたジャン。腕パシーッて」
「あぁ、万里さっきあの子の事怒ってたし。なんか強引だったから思わず手が出ちゃったよ」
本当に思わず、という感じで手が出てしまった。触らせたくない。と思ったら本当に無意識で。
いつもだったらもう少し上手く立ち回れるのだけど…と考えていたら
「タイガでもあんな風にすんだなーって思ったら、笑えた」
「?」
「もっと人類皆ビョードーってタイプかと思ってたし、上手く口でやり込めるタイプかなーって」
「確かにね、いつもだったらそうする所だったけど…ね」
ハハッと笑ってエレベーターに乗り込んで、万里の部屋の前までもう戻ってきてしまった。
幼かったあの日から時間がかなり経ってしまったけど、再び出会えてこんな風に気軽に話せるなんて…と信じられない気持ちになる。
今日一日でこんなに距離が縮まった。
いくら話しても話し足りない。
もっとずっと一緒にいたい。
離れがたいなぁ…と思っていると
「オレさー、タイガの事カイチョーやってる顔しか知らないからあれだけどサー、上手く言えないけど、今みたいに自然体の方がイー感じ」
オモロイし。と、万里がニッと笑った。
え?と万里と向かい合う形で足を止める。
「タイガ明日ガッコー行く?」
「え?行く…けど…」
「んじゃ、朝行く時インターホン鳴らして?一緒行くわ」
「え?」
「あ、朝メシ食うヒト?また朝もウチで食う?」
「え?いいの?」
いつも朝はコーヒーのみだったが、万里に誘われてノーなんて言わない。
「オッケー。んーと、じゃー朝メシの準備できたらコッチからメールするよー。アド教えて」
「うん!えーと、ハイこれ」
とスマホをポケットから出し、万里に渡す。
「……」
一瞬の沈黙の後、
クックックと万里が肩を震わせて笑っている。
「おまっなんで、スマホ…ブフッ渡した?……ブフッフフッ」
堪えきれない万里はまた豪快に笑った。
「え?なんで笑ってんの?」
笑われてる意味がわからなかったが、万里が楽しそうだからなんでもいいかと思った。
「あーホントおもろ。とりあえず、スマホのロック解除だけして」
万里は笑いながらスマホを戻してきた。
「あ、そうか。ゴメン。ロックしたままじゃどうしようもないよね」
ロック解除して再度スマホを渡す。
「ロックしたまま渡してきた事がオモロかった訳じゃナイからねー」
クックと笑いながらスマホをササッと操作した。
「ハイ」
形のキレイな手からスマホを渡され、
「スマホのとタブレットのと両方入れといた。後でメール送っといてー。んじゃ、また明日ー」
あーポンコツすぎーと笑いながら扉にカードを差し込んで、手をヒラヒラ振りながら中に入って行った。
パタンと扉が閉まり、静寂が戻る。
思いがけず連絡先をゲットできて胸の高鳴りも最高潮に達しそうだった。
その瞬間、ブーッブーッとスマホが鳴る。
チラリと画面を見ると、静からだった。
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