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第20話
「静?」
部屋に入りながらスマホに出る。
『あ、大雅?今いいか?』
「大丈夫。どうだった?」
シンとした暗い部屋に自分の声が響く。
さっきまでの高揚していた気持ちが一気に下がっていくのがわかる。
『あー、結局、先に絡んだのが親衛隊の方だったらしくて内容聞いたが…まぁ、八つ当たりだな。ギャラリーも多かったしそれは間違いない。』
「ふーん。で?」
パチッと部屋の電気をつけると殺風景な部屋が目に飛び込んでくる。
『まぁ、親衛隊も良くはないが、転入生の方がいつも以上に喧嘩腰で噛み付いていって、親衛隊の一人に掴みかかろうとしたらしい。で、生徒会役員達もまずいと思ったのか、一応間に入って押さえてたみたいだな。ちょうどそれくらいの時に濱島先輩が到着して…』
静の話を聞きながら、ソファくらい持ってくるべきだったかなぁ?とボンヤリ考える。
『大雅?』
と訝しげに静が話しかけてくる。
「あ、うん聞いてるよ」
ゴメン、と返事をして先を促す。
『どっちにしても、親衛隊の懲罰活動は禁止しているからそれに当て嵌まるのかという所だな。まぁ、小競り合い程度だから問題無しになると思うが。転入生が先に手を出そうとした件は結果的に空振りだったから特におとがめなし』
「話聞いてるとくっだらないな」
くだらなすぎて嫌になる。
自分の居た環境がなんてくだらなくてつまらない場所だったのか、全て放り出したい気分になる。
『本当にくだらないな。でも仕方ない』
「実里先輩は?あの人責任感強いから」
『あぁ、親衛隊が問題行動起こしたって事で隊長である自分が責任取って自主謹慎すると言い出した。』
「自主謹慎ねぇ…どのみち親衛隊自体は解散なんだから、そんな事しなくてもいいんじゃねぇの?」
フゥと無意識に溜息が出る。
『そうなんだが、大雅に合わせる顔がないと言って聞かないらしいぞ』
「…明日にでも実里先輩の所に行くよ。それと、有耶無耶にできないから、放課後親衛隊集める事にするわ、部屋借りといてくれる?」
『わかった。転入生と役員の奴らには?』
「まぁ今の所こっちから接触するつもりは無いかな」
『了解。とりあえず昼の件について報告は以上だな。…所で、飯食ったか?』
さっきまでの堅い話から急に心配したような声になる。
「あぁ、食べたよ」
頭にさっきまで一緒にいた万里の顔が浮かぶ。
『そっか、どうしたか少し心配だったからな。お前放っておいたら甘い物しか食わないし』
ハハッと電話越しに笑っている。
「なんだよそれ〜。まぁ、ご飯事情はとりあえず大丈夫だから心配ないよ」
『そうか?なら良かった。もしそっちの食堂無理だったら、S寮でテイクアウトして持っていってもいいんだぞ?』
「サンキュ。どうしても、になったらお願いするよ」
静は大雅の食事事情を分かっているので、心配してくれていたらしい。
『まぁ、無理するなよ。でも明日からFクラスだしちょっと心配だな。朝迎えに行こうか?』
「ハハッ。なんだよ〜子供じゃないっつうの」
『フッ。大丈夫そうだな?』
「大丈夫だっつうの!マジ来るなよ!」
『ハハハッ。じゃあ、明日部屋押さえておくから。頑張れよ」
「サンキュ。じゃあな」
『じゃあな』
軽いやり取りで電話を切る。
また静かさが戻ってくる。
「あ、そうだ万里にメール!」
急に気分が高揚する。
ただアドレスを教える為にメールするだけなのに、何となく何送ろうかな、と柄にも無く緊張した。
散々悩んで、
『今日は本当に色々ありがとう。ご飯も美味しかった。明日も楽しみにしてます。天城 大雅』
という差し障りのない内容とタブレットのアドレスを書いて送信した。
気が付いたら、もうすぐ日付が変わる時間になっている。
「…シャワーして寝よ…」
と思った瞬間にスマホが震えた。
万里からの返信だった。
『朝は米派かパン派か。教えてー』
どちらでも無かったから、どっちでもOK。と返事を送る。
そんな些細なやり取りができる関係になれた。
明日また万里に会えると思うと明け方までなかなか寝付けなかった。
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